天才策士は一途な愛に跪く。
私は、広いホールを見渡した。

胸元の蒼いブルートーパーズを、そっと握る。

高い白いヒールのパンプスに、白いスカーフと一体型のシフォンブラウス。
ロンドンのデザイナーものの、立体的なカッティングが施された美しい長目のスカートスーツ。

髪は少しだけ、サイドを巻いてハーフアップにした。

帝都ホテル「飛翔の間」。

18時の会場を待って、入場した人々がそれぞれの定められた円卓の座席へと足を進めていた。

円柱が並び立つ、豪奢なホールに数百人の招待客がドレスアップした姿で集い始めていた。


ピアノ、チェロ、ヴァイオリン、フルート・・。

オーケストラが生演奏を奏でていた。

天井は数メートルの高さに、凝った造りの花を模したシャンデリアが埋め込まれていた。

絨毯が敷き詰められ、存在感のある花々が高らかに生けられている。

「チーフ、開宴前ですが、あちらに雑誌社の方が取材に来られてますが・・。」

アオイが、紺色の落ち着いたスーツを身に着けて小走りで私の元へと駆けてくる。

私は、アオイの後ろで手を振る人物の姿を見つけて笑顔になった。

「アオイ君、案内してくれてどうもありがとう。
取材って言うから誰かと思えば・・。遥じゃない!
今日は、取材で来てくれたんだね・・!!ビックリした!」

プレスの腕章を腕に付けた遥が笑顔でおめでとうとお祝いを言う。

「勿論だよ!!山科メディカルの社運を賭けた巨大プロジェクトでしょ?
そのチーフが私の親友だなんて、鼻が高いってば!!」

大手出版社の編集として働く彼女は、取材側で招待されていた。
自分の事のように喜んでいる彼女の様子を見て、私も嬉しくなって微笑んだ。

「チーフ、遥さんも・・。
飲み物取ってきました。今のうちに休んでくださいね。
人がどんどん入ってきちゃうと、ゆっくりする暇もないですよ。」

アオイが水をそっと私に手渡す。

「有難う!!アオイ君て、本当にジェントルだね。気が利くー!!」

「当たり前だよ、僕はチーフしか見てないもの。」

青い瞳をお茶目に片目を瞑りながら言う軽口に、私は吹き出しそうになった。
< 101 / 173 >

この作品をシェア

pagetop