天才策士は一途な愛に跪く。
「聖人、・・大丈夫か??」

慧は、森丘 晶の様子を目で追っている聖人に声をかけた。

いつもの落ち着いた聖人ではない、緊迫した様子に不安そうな視線を送る。

「うん・・。動くとしたら今日だ・・。
この間のように、みすみす傷つけられる
前に守ってやりたいけど。
俺が彼女に引っ付いていれば、あちらも動きが取れない
だろうから悩ましくてね。」

「もどかしいな・・。聖人、これを渡しとくよ。」

聖人の肩を叩いた慧は、秘書を呼び紙袋を渡す。

それを確認した聖人は苦く笑う。

「・・・これ、君の私物??」

「意外と、いざという時に役に立つんだぞ。」

「はははは・・。
慧は予想の斜め上を行くよね。でも、有難う。」

少しだけ、緊張が和らいだ聖人は慧を見てホッとした笑みを浮かべた。

「大丈夫だ・・。お前は、一人じゃないだろ。
俺も、今回は「あいつ」もいる・・。」

大きく頷いて2人が笑顔を交わした。

「・・・慧!!」

そんな談笑の最中で、慧がギクリとその呼び声に強張る。

「美桜、来たの??体調は大丈夫かい??」

「お兄様ご機嫌よう!!」

「来たわよ・・??お兄様、聞いてよ!
慧が危ないから来るなって言うんだけど。
パーティが危ないって逆に気になるわよ・・。」

はねっかえりの妹は怒りを隠さずに僕に訴える。

ヒールのない靴に、すみれ色のワンピース姿の美桜が仁王立ちで立っていた。

わが妹ながら、可愛らしい出で立ちと、薄化粧でも美人が引き立つ容姿に目を見張る。

「何でだよ、危ないだろ!?
ちゃんと家で休んでろって言っただろ??
美桜に何かあったら俺が機能しなくなるから困るって言ってるんだ!!」

「何でって、何でもよ!!
なら、慧が私を守ってくれればいいでしょ。
そもそも、守られなきゃいけない事態なら看過出来ないわ。」

慧が美桜をなだめるように説得を始めた。

「さすがの慧も、美桜を前にすると人間らしくなるね。」

苛立って、焦りだす慧を見ながら僕はプッと吹き出した。


その時だった・・。

視線を森丘 晶へと戻した僕は驚いて顔を上げた。

彼女が持っていた携帯に連絡が入り、遥とアオイの元を離れようとしていた。

「・・・慧!!」

鋭くなった僕の声に、説得を続けていた慧はハッとこちらを見た。
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