天才策士は一途な愛に跪く。
「あの・・。瑠維から、大変な事になったから助けて欲しいって
連絡が入ったんですが・・。何か、あったんですか?」
緊張を隠せずに、額は薄っすら汗ばむ。
横にいる瑠維をチラっと見るけど、表情一つ変えずに父親の言葉を待っていた。
「森丘 晶さん・・・。だったね?
君を呼び出してもらうように瑠維に頼んだんだよ。」
「え??」
瑠維の父親である南條ハイテクノロジーの社長と会ったのは、大学院生の時に
一度・・。
彼の家に課題をやりに行った時と、社会人二年目の夏に葉山の別荘に遊びに行った時だった。
「何故・・。私に何か御用ですか??」
私は、背筋を伸ばして南條と、その横にいる2人の男性のほうへと視線を向ける。
「君とゆっくり話をしたかったんだ。
君は、、知っているのかね?山科メディカルでの君の父親の事故の件を・・。」
心臓は強い鼓動を叩いた。
「はい・・。最近、育ての母から聞いたばかりです。
私は、幼少期の記憶があまりなかったもので・・。」
「あれは事故じゃないと言っても、君はまだ山科メディカルの研究員でいるつもりなのか?」
精悍な表情の浮かべた南條は、口角を上げて晶と瑠維とを交互に見た。
瑠維は驚いて息を飲む様子が横眼で見えた。
「それは、どういう意味ですか・・・。」
「もう、知ってるかもしれないが・・。
アルバン君の研究はうちから同一の研究が発表になって・・、
それが、莫大な利益を生んだことはもう知っているかね?」
「いえ・・。
他の会社から父の研究が発表されたことは聞きました。
だけど、それが南條・・。
瑠維のお父様の会社から発表されたことは・・。知りませんでした。」
私は、丁寧にゆっくりと言葉を紡いだ。
真剣な眼差しを向ける、南條の瞳を反らさないように見つめる。
「山科メディカルが黒幕だったんだよ。
あの会社は、研究者の心血注いだ研究が高値で売れると解ると、それを逆手に同じ部門の
メーカーに高額で売り付けたり、言う事を聞かない研究者を・・・。
まぁ、大っぴらに言えないような方法で抹殺するような会社だった。」
「森丘 晶さん、・・貴方も、貴方の研究も・・。
山科に利用されるなんて私には耐えられないのだよ。」
「あの・・・。黒幕って・・。
山科メディカルは・・。一体、どうやって父の研究を御社に売り渡したんですか?」
私の方を見て、嬉しそうに笑む南條に、背筋が凍るような違和感を覚えた。