天才策士は一途な愛に跪く。
「火災を起こしたのは山科メディカルがやったことじゃないだろ。
高遠 誓悟・・。
火災事故の二日後に、うちに入社して来た社員だ・・。
そして、研究を発表したのも・・。
その高遠の研究チームだった。俺がこの手で、調べたよ。」
「あんたさ、山科メディカルに研究開発の資金だけじゃなくて、
ご丁寧に新しい研究棟まで建ててやってたよね・・。
共同研究がしたいって話を持っていって。
結局、その高遠は山科を裏切った事がバレて逆鱗に触れたみたいで・・。
すぐに山科に、消されたようだけど。」
嘘・・!?
お父さんが、同じ研究チームの人に裏切られて研究を盗まれた・・。
「激怒した山科氏に、全部高遠に罪を被せて・・。
知らぬ存ぜずで通した父さんにも、心底軽蔑した。反吐が出るぜ・・。」
「そんなの酷い・・。何でそんな事出来るの!?」
私は、憤りとあまりの失望に身体が震えた。
少しずつ取り戻してきた、優しい父の笑顔と、穏やかな表情の母・・。
一人娘として愛された私の記憶が蘇る。
同じ研究者としても、そんな卑劣な行為が許せなかった。
「あんたの会社の利益の為に、私の父と母は殺されたの!?
高遠って人は何で・・何でそんなことを・・。」
どうしてお父様にそんな酷い事をしたんだろう。
父は、そんな人に恨まれるようなことをしたの・・・??
愕然とした表情の私は、ふらりと眩暈を感じて倒れそうになる。
「大丈夫か・・。」
聖人が私の肩をしっかりと抱いて支えた。
「全てを山科メディカルのせいにして、晶と、晶の研究ごとまた自分の物にしようと
企んだんだろうけど・・。そうはいかない。」
「晶は、それにこれから先、どんな研究者だって・・・。
会社や個人の利益の為に、命を簡単に奪われるようなことなんて
あってはならないことだ。」
聖人の言葉に、慧は静かに頷いていた。
「残念ながら、調べはついてる。」
慧は分厚い報告書を手に、南條をあざ笑うように見下ろした。
「父さん・・。残念だよ!!
俺は、あんたがしたことを許せない!!
父だからこそ・・。だから、尊敬出来る人間でいて欲しかった・・。」
悲しそうに、瞳を歪めた瑠維は吐き捨てるように父を見た。
がっくりと項垂れた南條は、抵抗もなしに手錠を嵌められた・・・。
「さて・・。ここからはうちの仕事だぞ、慧。」
「詳しい話は、たっぷり聞こうか。
南條さん、署で事情を聞かせてもらいますよ・・。」
白い髭を蓄えた落ち着いた老人が、姿に似合わぬ怒気を孕んだ鋭い表情を
南條に向けて、連行を促した。