天才策士は一途な愛に跪く。
白薔薇の幻想
「「・・パチン。パチン」」
手には手袋をはめて、白薔薇の棘を排除する・・・。
もしも、この薔薇の棘が彼女のあの長い美しい指を
傷つけたらと思うと耐えられない。
大きな大輪の薔薇は、今年も美しく朝露を称えて輝くように咲いていた。
家の主が居なくなったこの家で、一人きり・・。
その孤独にも、もう慣れた。
僕は庭園の薔薇の添え木を確認した。
持ってきたハサミを取り出して、茎をパチンと切り取る。
今年は、12本・・・。
大輪の白い薔薇にリボンをかける。
今年の「彼女」の選曲は「ラフマニノフ・ピアノ協奏曲第二番」
僕の好きな曲だ・・。
一緒に彼女の演奏を聴きにつれて行ってくれた人物は
もういない・・。
毎年のルーティンワークだった、
ピアノのコンサートに出かける準備をしよう。
美しいピアノの音色と、あの美しく、哀しい色を称えた青い瞳に会いにいこう・・。
大きな庭園に背を向けて、家の扉へと向かう。
「チャイムを鳴らしてもいないから、留守かと
思った。庭にいたのか?」
「ああ・・。花壇に居たよ。兄さんこそ、急にどうしたの?」
兄が、また家に遊びに来たようだった。
「母さんに頼まれて食事を持ってきたぞ。
どうした・・??
そんなに沢山の薔薇を持って。」
僕は、口角を上げて制服姿の兄を眺める。
そんなの愚問だ・・。
僕は、穏やかな笑顔を作ると兄に向けた。
「兄さん、来てくれて嬉しいよ。
薔薇が今年も綺麗に咲いたんだ。」
「本当だ・・!!凄いな・・。
薔薇って育てるの難しんだろ??」
「ああ・・。手間がかかるけど・・。
丁寧に育てた分、大輪の花が咲くんだよ。
この白い薔薇を今年も届けに行かないとね。」
少年は、芳醇な白い薔薇の香りにうっとりと微笑んだ。
2人の少年は、大きなお屋敷の扉の中へと消えていった。