天才策士は一途な愛に跪く。
私は、庭が一望出来るバルコニーから、大きな窓の外の景色を眺めていた。
パーティが始まって、乾杯や聖人の挨拶などが
予定通りのタイムスケジュールでこなされていく。
21時を廻り、外はとっぷりと暗闇で包まれていた。
「・・あっ。」
庭の立派な松の木の枝が大きく揺れた。
ポツリと大きな雨粒が落ちてくる・・。
雨が降ってきた・・。
「アキラ・・!?どうしたの?こんなとこにいたんだ・・。」
「アオイくん、チーフでしょ!!すぐ名前呼びするんだから・・。」
困ったようにクスクス笑う私に、アオイは優しく青い瞳で微笑んだ。
「色々、あるよね・・。僕ね、チーフに話したいことがあるんだ。」
青い瞳は少しだけ憂いを帯びていた。
金色のサラサラした髪は彼の瞳に影を作る。
「今、いいけど・・??余興の最中だし。」
シャンパングラスを片手に、アオイを見上げると珍しく真面目な顔をしていた。
不思議に思って尋ねる
「ううん、今は言わない。」と言われた。
「大切な事をアキラに伝えなきゃいけないんだけど・・。
聖人におあずけを食らっててさ。
・・どんな約束でも、約束は守らないとダメだからね。」
「山科君に・・、何だろ??」
その言葉に、私は訝し気にアオイを見上げた。
何の話だろう・・。
これ以上の衝撃的な内容の暴露は辞めて欲しいかったので、
不安に思った私は押し黙った。
ショック療法じゃないんだから・・。
今、これ以上のビックリはご馳走様だよ!!
雨の音が聞こえてくる。
強く降り出した雨が激しくガラスに打ち付けていた。
「アキラは運命って信じる??」
唐突な質問に目をぱちくりしていると、
アオイがその様子を見てまた笑顔を浮かべた。
「あはは・・。信じてなさそうな顔してるけど、
僕はけっこう運命って奴を信じてるんだ。」
「ふーん・・。軽そうに見えて、意外とロマンチストなんだね。」
私の素直な言葉にアオイが膨れる。
正直、アオイが運命とかを語ることにビックリした。
運命を信じるかと言われたら・・。
「でも、運命があるなら・・。私も信じたいな。」
その言葉にアオイの瞳が微かに揺れた。
押し黙って私の横顔を見ていた。
山科 聖人と再び会えたことがそうだと思いたかった。
彼が私の運命の相手だと・・。
その時の私は信じたかった。