天才策士は一途な愛に跪く。
生まれながらに山科の御曹司である聖人・・。
私は両親を亡くした身内のいない孤独な身で
彼とは全くもって釣り合わないのは解っていたけど・・。
私にとって、何度も忘れようとしても想いは消えなかった。
聖人は、自分にとって特別で、唯一の存在だったから・・。
「あ、次の企画が始まるよ・・。アオイ君も携わったやつだよね。」
私は、手元のスケジュール表を確認して彼に声をかけた。
「忘れてた・・。行かなきゃ!!ア・・、チーフまた後で話そうね。」
「うん、行ってらっしゃい!!頑張って。」
私は笑顔でアオイを見送る。
次は、演奏の時間か・・。
ホールが暗転して、有名な管弦楽団のスローな曲が流れる手はずになっている。
アオイがその場を仕切る係になっていた。
私はフロアの中に入って、舞台そでに立ってアオイの様子を確認する。
フロアの中央にパッと光が差して、アオイがマイクを持って話し出す光景を
見ると、そっと踵を返して後ろ手に下がった。
ライトが暗転する時間を時計で確認しようと、右腕を上げた瞬間だった。
「晶・・。」
聞き覚えのある声で、呼ばれた私は声の主の方を振り返った。
その瞬間、明かりが消えて真っ暗になった。
音楽が鳴り響き、辺り一面が真っ暗になる。
ドラムロールが鳴り響く最中に、右手に痛みが走る。
「いっ・・・。」
声にならない吐息が漏れる。
違和感を感じて振り返ると、腕が纏め上げられてグラリと姿勢を崩す。
口を塞がれたまま、強い力で両腕を纏め上げられると
引きずられるようにして私は舞台袖に引きずられていく。
どうしよう・・!?
何でこんな事になるの??
靴が片方、落ちてしまって驚いて目を見開く。
それでもなお、舞台裏の暗闇を通りズルズルと引きずり出される。
「「ガタン・・。」」
ドアを出る瞬間、薄いダンスライトが灯った。
舞台袖にあった非常口の前に出てすぐに大きな鉄扉があった。
その先のドアの外の景色が見えた。
冷たいコンクリートの駐車場が広がっていた。
「・・・んんんっ!!」
声にならない叫びを挙げても、誰にも届かない。
2人の足音と、引きずられる音だけが響く。
ドアのすぐ側に停車してあった車の前に出ると、私は顔色を
失った。
「・・乗って?」
ギクリと身体が震える。
背中には、鋭いものを当てられていた。
「動かないでね、晶・・。ここで君を傷つけたくないんだ。暴れたら嫌だよ・・。」
聞き覚えのある声が恐ろしい言葉を紡ぐ。