天才策士は一途な愛に跪く。
私はサーッと目の前が真っ暗になった。

声にならない想いを瞳に込めて振り返る。

何で彼が・・??
全然意味がわからない・・。

「何でって思ってる・・・?
どうして自分がこんな風に脅されているのか知りたい?」

私は、涙目で頷くと・・。

フッと口角を上げて、到着した車の後部座席の窓へと
私の顔を押し付けた。

頬に痛みが走り顔を歪める、、。

薄っすら両目を開けて中を見た。

私は中の様子にギクリと身体が跳ねる。

「いつかは・・。君に僕を見てほしかった。・・世界で僕だけを。」

後部座席のシートの上には、
数十本の白い薔薇の花束が赤いリボンに纏められて置いてあった。

その異様な光景に冷たい汗が流れる。


「「白い薔薇・・。」」

これは・・。

私はゴクリと喉を鳴らして食い入るように、見覚えのある大きな白い薔薇を見つめた。

その送り物は、毎年演奏会で私が受け取っていた物だった。

「そこまでだ!!うごくな 」

カチャリ・・。

背後で銀色に光る物を構えた警官隊が、私の後ろの人物へと銃口を向けていた。


「田辺・・いや、高遠 怜・・!!現行犯逮捕する。」

黒いスーツ姿の怜は、ギリッと唇を噛んだ。

高遠・・怜!?

私は耳に届いてきた警官のセリフを反芻していた・・。

四方を警官隊に囲まれた怜は、眼鏡の下の笑ってない瞳で冷たく周りを見渡した。

私の背中に突き詰めた銀色のナイフの感触が、すぐそばにある。

「ナイフを捨てろ!!捨てないと、撃つぞ。」

警官隊の言葉にも、ピクリとも眉を動かさない怜の様子に私はぎゅうっと目を閉じた。

「・・怜、辞めろよ!!何やってんだよ!!
こんなことして、・・・掴まるなんてどうかしてるよ。」

後ろから現れた瑠維の呼びかけに、ピクリと頬を引きつらせる。

不遜な表情でニヤッと笑った。

怜は、私を冷ややかに見下ろして呟いた。

「自分がどうかしてるのは・・解ってる!!
だけど・・・。止められないんだよ!!」

初めて怜の感情的な場面を見た気がした。

ナイフを顔の前で振り回す動きに緊張が走る。

私は心臓がドクンと大きく跳ねた。

いつも笑っていて、眼鏡を外すと整った容姿の知的な青年だった。

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