天才策士は一途な愛に跪く。
「アオイくん・・。瑠維は全部知ってたの??」

「・・ああ。山科さんから事前にな。隠しててごめんな。」

話の流れから、私の知らなかった彼の父親の話も全て理解していたようだった。

「21:15 暗転した瞬間に真犯人が現れる・・。
タイムスケジュール表には書いてあったけど。
私だけ知らないとか・・。不公平だよ!!」

「晶が知ったら、流れが変わるかなってね。」

聖人は気まずそうに、私を見た。

「だけど・・。実際、知らないほうが良かったと思う。
晶は素直だし、顔に出るでしょ?
でも、流石にギリギリだったし・・。
タイミング待ってたけど、近くの警官の拳銃借りて打ちそうな
自分を抑えるのに必死だったよ・・。」

笑顔の聖人の顔が笑ってない。

珍しく物騒なセリフに驚く。

「本当にね・・。人質取られた状態だと身動きが取りにくくてさ。」

お手上げポーズのアオイに私は質問をぶつけた。

「アオイくん・・。強すぎだよ!!貴方、一体何者なの!?」

表情を強張らせて、そっと顔を上げた。

「うーん・・。一時期、軍隊に入ってたからね。そうだ、銃も使えるけど?」

笑顔で物騒!!

爽やかに笑ってるけど物騒だよ!!
引きつりそうになる顔でアオイを見ると、後ろに怜の姿が映る。

「・・怜。」

瑠維も振り向いて怜の姿を見つめていた・・。

「情けないよな・・。あんなに、ずっと側にいたのに。
あいつの苦しみに全然、気づけなかったなんて・・。」

隣の席で、コーヒーを差し出してくれる怜の笑顔が目に浮かぶ・・。

「笑顔の怜しか私は知らなかった。隣に並んでいたのにね・・。
毎日、「おはよう」って笑う怜の顔しか浮かばない。
何1つ解ってあげられなかった。」

さっきの彼の叫びは今まで抱えてきた彼の心の叫びだったんだ。

手錠をかけられる怜を見上げて、私は何とも言えない感情になる・・。

どんな気持ちで、白い薔薇を届けていたんだろう。

彼は、父親を亡くして・・。
どんな人生を歩んで来たんだろう。

もっと彼の話を聞けば良かった・・・。

私は片足しか靴を履いてない状態でズルズルと立ち上がる。

「怜・・・。」

暴れていた彼が、一瞬私を見て動きを止めた。

手錠をかけられた姿に、まだこれが現実なんだと感じられなかった・・。

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