天才策士は一途な愛に跪く。
「毎年、私のために・・。白い薔薇の花をありがとう。」
驚くように押し黙った怜は、何も言わずに私の言葉を聞いた。
「私がピアノを続けられたのは、
毎年楽しみに聞きに来てくれた貴方のお父さんと、怜のお陰だった。」
思い出していた。
初めての発表会の日に届いた、白い大輪の花の美しさと香しい香り・・・。
緊張感に包まれていた私を、そっと解してくれるような優しい香りだった。
「あの頃の私にはそれが支えだったの。何度も、励まされたんだよ。」
ちゃんと笑えない・・。
だけど精いっぱいの感謝を込めて微笑んだ。
その笑顔に、一瞬怜は息を飲んだ。
そして・・。
私の涙を浮かべた瞳に、怜は苦しそうに顔を歪めた。
晶と怜のやり取りを見守っていた聖人の肩にそっと手が置かれた。
「会場(こっち)は大丈夫だが、10分以上時間押してるぞ・・。
聖人の計算ミスだな。」
二条慧が、現れて時計を見ながらボソッと呟いた。
「相変わらず手厳しいな、慧は・・。」
聖人は困ったように笑うと、自分の後ろにいた人物にそっと声をかけた。
ゆっくりと自分の後方の人物へと向き直した。
「高遠、ちゃんと話したほうがいい。行きなさい・・。」
「はい・・。社長。」
紺色のスーツ姿の男性は、聖人の秘書だった。
警察に囲まれている怜のほうへとゆっくり近づいていく・・。
私は驚いて、怜に近づいていくスーツ姿の男性を目で追った。
「えっ?!高遠って。まさか・・。」
「うん・・。彼の実の兄だ。
離婚した母親に引き取られてから別に暮らしていたようだけどね。
母が亡くなった今、彼の唯一の肉親なんだ。」
項垂れて、荒んだ目つきの怜は
兄に気づいて、瞳を大きく見開いて彼を見つめた。
苦し気な瞳で怜を見つめる兄は、痛みを堪えたように
ぎゅうっと唇をかみしめていた。