天才策士は一途な愛に跪く。

心配そうな面持ちで、晶の姿を静かに見つめていた。

再会してから・・。

再会するその前から、この日が来るのを待っていた。

彼女を守る為に再び彼女の前に姿を現した自分との再会を、彼女は心から
喜んでくれた。

そして、さっき・・。

全てが片付いたのだった。


窓の外は一面のネオンが広がっていた。

そこに1つの影が近づいていく・・。

「聖人・・、漸くだね。僕との約束は覚えてる??」

バーカウンターに座っていた聖人の隣に現れたのはアオイだった。

「覚えているよ・・。アオイ。」

少しだけ切なそうに晶を見つめた聖人は、
コースターにそっと飲みかけのワイングラスを置いた。

「・・ふーん、いいの?それで君は・・。後悔しない?」

青い瞳は訝し気に聖人を見つめていた。

聖人は、薄く笑うとグラスの中身のワインの持ちてを握る。

「後悔か・・。どうかな。
だけど、それは、僕が決めることじゃないよ。」

「聖人がそう言うなら・・。返してもらうね。
彼女の本当の居場所に・・。」

聖人は遠くの晶を見つめた。

友人と、笑顔で話している彼女の明るい様子に少しだけホッとした。

「いいよ、そうして・・・。晶を、頼むね。」

力なく吐き出した言葉に迷いは明らかに現れていた。

静かに頷いたアオイは、携帯を片手にバーカウンターを離れていく。



「慧・・?どうしたの??」

美桜の声に、振り向いた慧はバーカウンターに座っている聖人を見ていた。

さっきから、話をしていたアオイと聖人の様子を伺っていた。

「いや、何でもないよ。
すまないが美桜、食べ物も適当にオーダーしてもらっていいか?」

きっと空腹であろう、彼女を気遣い声をかけた。

「うん。適当に見繕って頼んでおくね。」

その気使いに気づいた美桜は茶色い瞳を細める。

慧も笑顔で、メニュー表を開いた美桜に優しい視線を落とした。

短い会話を終えると、再び聖人の背中に不安気な視線を戻していた。

「聖人はいいのか。
それでいいのかよ・・。本当に・・。」

慧は誰にも聞こえない大きさで、ボソッと呟いた。

聖人の性格をよく知っていた。

いつも、自分のことよりも人のことを優先にしてしまう優しい男だった。

そして、人を滅多に信頼しない自分が、ただ一人信じた男だった・・。

慧の案じるような視線に気づかない聖人は、グラスに注がれていた赤いワインを見つめていた。

・・これでいいんだ。
彼女が幸せなら、それでいい。

言い聞かせるように、繰り返し自分の心に刻み込む。

聖人は痛みを覚える心をマヒさせるように、グラスのワインを飲み干した。
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