天才策士は一途な愛に跪く。
「だって、ずっと一緒に居て欲しいって・・。」

私は、絞り出すように声を出した。

震える身体は立っているだけで精一杯だった。

「君を守らないといけなかったからね・・。
君の研究ごと、うちが守る必要があったんだ。」

涼やかな瞳で私を見てほほ笑む聖人は・・。

美しい悪魔のようにも見えた。

視界が歪んで、頬袋から熱いものがポロッと零れ落ちた。

「それでも・・。それでもいいよ。
私の研究が欲しいならそんなの、あげる!!」

「だから・・。
それでも、私・・。貴方の傍にいたいよ。」

頽れそうになる身体を、必死の想いで保っていた。

向き合う聖人の瞳は変わらず笑んでいる。

冷たい色を浮かべたまま。

「・・君は、ここにいるべき人じゃないよ。
自分の世界に帰るべきだ。」

「私の世界って??何言ってるの・・・。
聖人君、聞いて!!
私が居たいのは・・。」

フラリとよろけるように、一歩踏み出して彼に近づく。

聖人の瞳は、一瞬大きく揺れた。

「アキラ!!」

「聖人の言う通りだよ・・・。タイムアップだ。」

私は、聖人の後ろから数人の男性と一緒に現れたアオイを涙目で見上げた。

夜風が冷たく頬を刺すようにぶつかる。

「アオイくん・・?」

いつもと違う威圧的な雰囲気にわたしは目を見張った。

アオイは、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

私の正面に立ちふさがると、青い瞳を大きく開けた。

「君の本当の居場所は、ここ(日本)にはないんだよ。」

「森丘 晶・・。
アキラ=フォン=マックスブラント。
君はドイツの侯爵位を代々受け継ぐ、王家とも縁の深いマックスブラント家の後継者なんだ。」

「マックスブラント・・??」

怪訝な表情でその名を繰り返す。
父の名は、アルバン=マックスブラントだったけど・・。

聖人がゆっくりと私の傍へと近づいてくる。

「一体、さっきから何の話をしているの??」

こんなことばかりが続いていた・・。

私の気持ちを置き去りに、
事実ばかりが付きつけられていく。

冷たい、指先が小刻みに震える。

「君は、ここにいる人じゃない・・。
父親のアルバンは侯爵を継ぐ身分の人物だった。
君は、唯一の娘・・・。
世界的にも名が知られている
マックスブラント・コンツェルングループを継ぐ、
ただ一人の後継者なんだ。」







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