天才策士は一途な愛に跪く。
「そんな。そんなんじゃない・・。私、知らないよ。」
涙が凍ったように、スッと引いていく。
「みんな、ずっと君を待っているんだ・・。
ドイツには、君の本当の家族がいるんだよ!?」
アオイが、激しく声を荒げた。
私はその声にビクリと身体を震わせた。
「本当の家族・・??」
「そんなの、今更じゃない・・。」
「色々あって、迎えが遅くなってすまなかった、、。
だけど、、家族は一緒にいるべきでしょ?
育ての親からも、ちゃんと許可は取ったしね。」
「・・今度は簡単に受け渡すの?
あの人は。まるでわたしを物みたいに・・。」
「誰も私の気持ちなんか
気にかけてもくれないのね・・!?」
青ざめていく私の顔色に、聖人は不安気に私を見下ろしていた。
いつの間にか、パニック発作のように呼吸が浅くなっていた。
「嫌だよ!!私は聖人くんといたい・・。
マックスブラントなんて知らないよ。」
どうすればいいのかわからない・・。
私の本当の家族??
意味がわからないよ!!
お願い!!
聖人くん私を離さないで・・。
涙目で、聖人に視線を向けると
パッと私から視線をそらした。
なんで・・!?
指先から冷えていく感覚が広がっていく。
「アオイ・・。
今日から彼女は、お前が守ってくれ。」
そう吐き捨てると、踵を返してホテルの中へと歩をすすめていく。
ぴんと張った美しい背中と、さらりと揺れる茶色の髪が綺麗だった・・。
「聖人くん、待ってよ!!
だって、やっと、、やっと貴方に会えたのに!!」
「ずっと、、一緒にいてくれるって
言ってたじゃないっ・・!!」
嗚咽まじりの声で、身を乗り出して叫んだ。
なのに、私の脚が動かない。
縫いとめられたように、一歩も動きはしなかった・・。
小さくなっていく聖人の背中に、私の声は届かない。
「やだ、、待っ・・。」
手を伸ばした瞬間
視界がグニャリと形を変え出した。
「あっ、アキラ!?おいっ・・!?」
アオイの焦る声がフィルター越しに聞こえていた。
ドサッ・・。
崩れ落ちる身体を支える術もなく、
私はその場で意識を手放した。