天才策士は一途な愛に跪く。
「これ・・、私のお母さん・・だわ・・。」

私は、スッと出てきた言葉に自分でも驚いた。

「思い出したの??
・・・香澄のこと、覚えてるの!?」

アオイがパァッと明るい表情で私の肩を掴む。

「なんとなくだけど・・。ここに来てから・・。
少しづつ思い出してるの。
パッと、その急にその時の光景が一瞬現れて・・。
今だってそう・・。
これは私のお母さんだって、心が知っているみたいに。」

私は、母の部屋の窓を開けてバルコニーに出る。

そこに広がる美しい庭の景色を見る。

「ここ・・、この景色知ってる!!」

私はバルコニーの手すりから身を乗り出して広大な庭を眺める。

中央に位置する噴水の水飛沫が美しい・・。

この景色を私は・・。
大好きだったような気がする。

「そうだよ!!
君はよくこのバルコニーのベンチで昼寝していたんだよ。
ほら、あそこの小さなベンチは君がよくかくれんぼの時にかくれたままうたた寝してた場所だよ。」

アオイは懐かしそうに、クスクス笑っていた。

「「アキラ・・!!もう、また寝てる・・。まるでキミは、眠り姫だね。」」

笑顔で、私の頭をそっと撫でてくれる。

そんな優しい彼が大好きで、
よく一緒に遊んでもらっていた。

金色の髪と、青い瞳は王子様みたいで・・。


「アオイ・・!!ねぇ、、アキラは何処かしら??」

遠くで、彼を呼ぶ声がして静かに私の傍からそっと離れていく・・。

それが少しだけ寂しかった。

「「僕のお姫様・・。もう少しだけお休み・・。」」

そう言って、振り返ると頬に口づけをくれた。

私は、いつも寝たふりをしていた。

そんな彼の優しい口づけを、いつも待っていたんだ・・。


「・・・ん?どうしたの??」

バルコニーから庭を眺めていたアオイが、小さくなったベンチの前で立ったまま呆けている私に
優しい青い瞳で笑う。

「なんでもない・・。
このベンチ、もう小さいわね・・・。」

そっと小さくなった白いベンチに触れる。

固い石で出来たベンチはヒヤリと冷たかった・・。

「そりゃそうだよ、20年以上も前のものだからね。
・・・君も僕も、子供の頃のままじゃない。
大きくなったんだよ。」

その言葉にズキッと胸に痛みが走った。

はっきり覚えてはいないけど、私は昔、アオイの事をとても大事に思っていた・・。

少しずつ輪郭を帯びて現れてくる・・。

小さな頃のアオイへの特別な想いに、私は戸惑っていた。

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