天才策士は一途な愛に跪く。
図書室の前を通ると、そこであっただろう思い出が蘇る・・。
絵本を開いたアオイが、まだ小さかった私に読み聞かせをしていた。
「王子様は跪いて、愛を乞いました・・。めでたし、めでたし。」
「ねぇ・・。アオイも、いつかお姫様に跪くの?」
蒼い紺碧のような瞳は驚いたように、私を見る。
開いたままの本を閉じて、笑った。
「そうだね・・。僕が跪いて愛を乞う相手は、もう決まってるんだよ。」
「7歳なのに??もう運命のお姫様に出会ったの??」
私が訝し気にアオイを見た。
金色の髪を揺らして振り返る。
「うん。僕のお姫様は・・・。」
私は、ドキドキしながらその先の言葉を待った。
開かれた絵本のページには、王子様が跪いてお姫様に愛を誓っていた・・。
私にも・・。
いつか、そんな王子様が現れるんだろうか??
そんな淡い期待を持ちながら、アオイの言葉に耳を疑った・・。
「・・きら、アキラ!?・・アキラってば!!」
「えっ!?」
動揺した私は、急いで振り返った。
「次は、よく一緒に遊んでいた場所に行かない??」
「うん・・。」
図書館のハシゴの前でしゃがんだままの姿で、
ぼーっと本棚を見上げていた。
そんな私の目線の先に、大きなアオイの手が差し出された。
「大丈夫かい??ちょっと疲れちゃったかな。」
綺麗なサファイアの瞳がキラキラ輝いていた。
整った顔の輪郭がすぐ側にあって、ドキッと心臓の鼓動が鳴る。
「あ、ありがとう・・。」
私は、差し出された手をそっと掴むとグイッと力強く引かれた。
「どういたしまして、僕のお姫様。」
うわっ・・。
急に恥ずかしさで頬が染まった。
さっきまで、なんだか遠い過去の空想に浸っていた私は、アオイの
エスコートに心臓が高まる。
あの時のアオイは、なんて言ったんだろう。
まだ小さかったアオイは、あの頃から変わらぬお姫様がいたんだろうか・・。
王子様の印象は、私はアオイのような正真正銘のプリンスのイメージではなかった。
私の中の王子様は、子供の頃から山科 聖人・・。
その人のイメージだった。
優しく品のある物腰と、頭脳明晰、スポーツ万能でみんなから好かれていた彼が
私の中の、王子様像だった。
だけど、いざここに来てみると思い出すのはアオイとの思い出ばかりだった・・。
仕方ないよね・・。
聖人くんは、きっと・・。
私の研究が欲しかっただけなんだから。
だけどそれでもまだ、信じている気持ちがある。
切ない思いが胸を過ると、哀しさが溢れる。
怜のこともあったし、南條とのこともあって疲労困憊だった私に襲った
聖人からの別離の言葉は、予想以上に私の心に深く影を落としていた。