天才策士は一途な愛に跪く。
サンルームのような光を集めた部屋へと入る。
視線の先には、大きな一台のグランドピアノが置いてあった。
太陽の光が差し込むその部屋にそっと足を踏み入れた。
「・・・うわぁ。なんだか、ここ落ち着くわ。」
モスグリーンの壁に、大きな窓枠からは外の美しい景色が見える。
丁度、庭園とは逆の湖が見える窓が広がっていた。
湖面をキラキラと輝かせた湖がそこには見えていた。
「ここ、よく一緒にピアノを弾いた場所だよ・・。
香澄がいつもここでピアノを教えてくれててね。
アキラは、練習中の僕の邪魔をしにここへきてたんだ・・。」
「嘘だ・・!?私、そんな迷惑な子供だったの??」
衝撃の過去を聞いて、私は目を丸くした。
「迷惑じゃないよ?とても可愛かったよ・・。
いつも、笑顔で僕を連れ出してくれた。いろんな場所に冒険しに行ったんだよ。」
アオイが優しい瞳で私を見下ろしていた。
少しだけ距離の置いた2人の影が、大理石の床に映し出される。
そっと、私の前をアオイが通り過ぎると、ゆっくりとピアノの蓋を開ける。
椅子に腰かけると、私のほうを見て笑った。
「君が好きだって言った曲だよ・・。」
ピアノを奏で始めたアオイは別人のように、指を鍵盤の上で走らせる。
青い瞳がそっと閉じられた。
流れてきた優しい音色に、私は驚いて目を見開いた。
聞き覚えのある音・・。
温かくて優しく包み込むようなメロディーだった。
「亜麻色の髪の乙女・・・。ドビュッシーの曲ね。」
「そう・・。君が大好きだった曲だよ。髪色がそっくりだって言ったら笑ってただろ?」
「亜麻色って黄色っぽい薄茶色・・。赤も混じってなんとも言えない色だけど。
この曲はとても好き・・。」
アオイの奏でる音に耳を澄ます。
「僕も好きだよ・・。遠く離れててもこの曲を弾くたびに君を思い出した。」
切ない高音が耳に心地よかった。
「君の為に僕はピアノを弾いた・・。喜ぶアキラの顔が見たかったんだ。」
「・・・アオイくん??」
いつの間にか曲は終わりを告げて、立ち上がったアオイは私を優しい瞳で見つめていた。
綺麗な音色の突然の終焉に、私は驚いて目を瞬かせていた。
アオイは、切なそうに私の瞳をのぞき込んだ。
「君がピアノを始めたのは、僕のためだった・・。
僕がピアノを弾くのはいつも君のためだったんだよ。」