天才策士は一途な愛に跪く。
森丘 晶・・。

僕はその名に馴染みはない。

彼女を初めて見たのは、僕がまだ3歳の頃だった。

「アオイ!!見て見て・・。この子がアキラよ。」

美しい黒髪に、薄い茶色の色素を持つ日本人の香澄は、父の兄の奥さんだった。

僕の名づけ親は、その美しくて優しい音を奏でるピアニストだった。

「どれどれ!?・・うわぁ。小さいね!!髪の毛も少ししか生えてないよ?」

クスクスと嬉しそうに笑う彼女は僕の頭を撫でた。

「まだ、生まれたばっかりだからね。これから生えてくるわよ。」

その赤ん坊は、赤い髪に目を開くと、綺麗な空のような青い瞳をしていた。

「そう・・。この子の名前はね、アキラにしたの。
水晶のように、綺麗な瞳の色を見た時にそう決めたのよ!!」

アキラを僕の胸にそっと託した。

落とさないように、そーっと彼女をソファの上で力いっぱい抱きしめた。

香澄は大きなグランドピアノを開けると、いつものように天国のような音色を奏でる。

彼女の奏でる子守歌は、僕にはとても心地よかったんだ。

「ねえ、香澄・・。アキラは僕の妹??」

「違うわよ!!なぁに?どうしたのアオイ??」

香澄の部屋によく生けられている
白い薔薇のかぐわしい香りが部屋に広がっていた。

僕はその言葉に少しだけ嬉しさを感じた。

目があった晶の水晶のような瞳を見た瞬間に、僕の胸は大きく鼓動を刻んだ。

それが何なのかは、その時の僕にはまだ解らなかった。


ドイツの伝統的な家に育った。

王家と縁深い、マックスグラント家の分家・・。

伯爵位を継ぐマッケンゼンの家に生まれた時から
物心がつくとすぐに、勉強や武道を嗜むように教育されていた。

国の事業を運営する、父や、祖父を尊敬していた。

何処にいてもマッケンゼンの名が付いて回る・・・。

だから、いつでも紳士で王子様のような僕でいなければならなかった。

「アオイ・・!!あっち行ってお馬さんと遊ぼう!?」

ピアノの稽古の最中にこっそりと部屋に侵入したアキラは
キラキラした水色の瞳を輝かせて言った。

4歳になったアキラは、領地を駆けまわって遊ぶのが大好きな少女に成長した。

香澄の演奏講演に付き添って、世界を飛び回る時もあったし。

こうして、お屋敷にいた時は近くに住む僕の家に遊びに来ていた。
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