天才策士は一途な愛に跪く。
「アオイ!!・・大丈夫!??」
近くにいた男女が僕に駆け寄った。
痛みで泣きそうになる自分を、奮い立たせていた。
子どもの頃から、決して泣いてはいけないと教育を受けてきた。
母様も僕を見ている。
みんなが見ているのに、僕は泣いてはいけないんだ・・・。
「アオイ、本当に大丈夫なの??」
「うん、僕は大丈夫だよ・・。」
笑顔を浮かべて笑う僕の頬をアキラが思い切り引っ張った。
「い、イタッ・・。何するの、アキラ!?」
「アオイは、いつも我慢してばっかり。痛かったら泣いてもいいんだよ?」
アキラは、小さい声で僕に囁いた。
彼女は企んだようにニヤッと笑うと、僕の脇をこちょこちょと擽りだした。
「な、何するの??!あはは・・あはははっ!!やめてよ、アキラ!!」
笑いだした僕の目からポロッと涙が落ちた。
そんな僕を必死でくすぐるアキラを、香澄が止めた。
「はいはい・・。アキラ、そこまでよ!!そんなに擽ったらお腹がよじれちゃうわ!!」
「お母様、ごめんなさーい!!」
べりっと2人を引き離した母の顔を見上げて笑った。
謝罪の意思が全くなさそうな言葉に、苦笑した香澄は僕の頭にポンと手を置いた。
漆黒の髪を綺麗にカールさせた、美しい彼女は微笑んでいた。
「アキラったら・・。泣かせるまで擽っちゃってごめんね。
もう・・、この子ったら加減を知らないんだから!!
ごめんね、アオイ!!ほらっ、こっち来なさいな。」
「・・・はーい。お母様。」
香澄はクスクスと笑いながら、アキラの手を繋いで連れていく。
僕は、連れて行かれる彼女を呆然と見つめていた。
振り向きざまに、ウィンクをしたアキラに僕は呆然とした表情で何も返せなかった。
「大丈夫??アオイ・・。」
「アキラったら、下品よね・・。
あれで、マックスブラント家は大丈夫なのかしらね・・。」
そんな酷い言葉を囁く女の子たちもいた。
香澄の手を無邪気に引っ張って笑う彼女の横顔が眩しく見える。
その日の光景を、僕は忘れたことなんてなかった。
彼女のために、僕の人生を全部捧げてもいいと思えるような
そんな不思議な感覚を覚えたんだ・・。
初めて出会った日から感じてた、温かい気持ちの正体に
僕は漸く気づいたんだ。