天才策士は一途な愛に跪く。
ガシャン・・!!
荒々しくカップをソーサーに戻した美桜は、怒りを隠し切れぬ様子で
大きな琥珀色の瞳で慧を見上げた。
「・・・慧!?どういう事よ・・!?」
雑誌の見出しの記事を睨みつけるように悔しそうに唇を噛んだ。
記事には、山科メディカルの新規プロジェクトの事、そのチーフだった森丘晶の
研究を特集したものだった。
そこには、彼女の出生に纏わるマックスブラント家の話や、
フィアンセとして紹介されている
アオイ=フォン=マックスブラントとの2ショット写真が載っていた。
「ここの、フィアンセって何よ!?お兄様はそれで本当にいいの??
慧も、・・それに、お兄様はこのことを知っていたの・・??」
「美桜の想定通りだよ。聖人は全部知っていた・・。
全部知っていて、最後まで彼女を守ろうとしたんだ。」
「お兄様らしいわね。聡明だとは思っているけど。
そういう部分だけ、残念だわ!!
ドイツの爵位を継ぐって・・。
そんなの彼女の本当の望みなのかしらね・・。
研究者なのよ??」
涙目になる美桜の痛みを、慧はよく理解していた。
だけど、聖人の気持ちも理解出来なくはなかった・・。
「聖人は・・・。
あいつは、「彼」を自分と重ね合わせているんだろうな。
俺が、あんな情報を調べて渡さなければ良かったのかもしれない・・。」
「・・・ちょっと、慧!!情報って?
お兄様は、他に何を知っているの??」
美桜は驚いて立ち上がった。
ガタッと椅子から立ち上がった美桜はふらりとよろけた。
「美桜!?お前、一人の身体じゃないんだから、あまり興奮するな。」
そんな事を言われても無理だよって言ってやりたいのは山々だったけど・・。
お腹の子供は慧にとっても、大切な子供だった。
今は、家族が私しかいない慧にとっての・・。
大切な新しい家族・・。
「・・・ごめんなさい。」
シュンとした表情の美桜の手を優しく慧は握った。
「心配なんだよ・・。君の気持ちは分かるけどな。」
「解らないわ。
お兄様は・・・。
どうして森丘さんを諦めたの?
どうしても納得出来ないの・・。
あんなに幸せそうなお兄様を見たことがなかったもの!!」