天才策士は一途な愛に跪く。
「・・すごい。何だろう・・。カスミの演奏とも違う。この切ないドビュッシーは・・。」
アオイは、驚いたように蒼い瞳を輝かせて晶の演奏を見つめる。
息を殺して静かに彼女の奏でる音に耳を澄ましていた。
美しい亜麻色の髪を靡かせて、光に照らされて空色のような光を称える瞳が美しく映る。
女神が奏でるような・・。
まさしく天上の調べだった。
「晶の音、、なんて・・。切なくて胸が苦しくなるんだ・・。」
ギギギ・・・。
1つの影がその調べを邪魔にならぬように、静かに部屋へと入室してくる。
アオイの横まで来ると、そっと目の前の美しい女性の姿に驚いたように目を見張った。
そして、奏でられる音楽に耳を澄まして目を瞑る。
このピアノルームでよく弾いていた「彼女」を思い出していた。
ピアノの演奏はクライマックスを迎える。
切ない音色は、想いを乗せて聞いている者に感動を与えていた。
鬼気迫る誰かへの強い想いが乗せられた音・・・。
「・・・晶、きみは・・。」
目の前の彼女の想いを受けた男性は思わず瞳から涙が零れ落ちた。
強く、とても強く
誰かを想っている。
そんな切なく苦しい想い・・。
こんな感情が遠い昔の自分にもあったことを思い出していた。
アオイを見上げると、アオイも苦しそうに瞳を潤ませていた。
演奏が止まった事に気が付いて、前を向くと晶がこちらを見て驚いていた。
「・・・どなたですか??」
大きなビー玉のような瞳を揺らして、男性を見下ろしていた。
演奏を終えたら、アオイの横に車椅子に載った金色の髪に青い瞳の男性がいた。
年は50代ぐらいの落ち着いた、優しそうな男性だった。
「アキラ・・。君の家族だよ。」
アオイは、晶のほうへと歩きだした。
私は、その言葉に驚いて男性を見る。
懐かしい顔・・。
大切だった誰かによく似たその顔に、釘付けになっていた。
その男性は、ゆっくりと皺のある顔で青い瞳を細めた。
「・・・会いたかったよ、僕の天使。」