天才策士は一途な愛に跪く。

「私の名前はアルバン=フォン=マックスブラント・・。」

「晶、君の父親だよ・・。」

「お、お父様!?だって、あの事故で・・。お2人共、死んだはずじゃ・・。」

信じられない言葉に、私は耳を疑う。

「生きてたんだよ。正確に言うと・・。数年前まで眠っていたんだ。」

「三年前に、目を覚ましたんだ。」

「私は、ずっと香澄に、そして君に会いたかった・・。」


その言葉に、私は全てを理解した。

こんな事って・・。

大切な人との奇跡の再会が2回も自分に訪れるなんて思いもよらなかった。

「私の本当の家族・・って、お父様だったのね・・。」

私は両目から涙があふれていた。

足が勝手に地面を蹴って走り出す・・。

懐かしい父の元へと、駆け足で辿り着いてそっと抱きしめた。

「生きていてくれたんですね・・。お父様!!」

「すまない・・。こんな身体で会いに行けなかった・・。
迎えにいくのが遅くなって、一人にして・・すまなかった。」

「いいんです・・!!会えてうれしいです。」

「あなたが、生きててくれて良かった・・。」

優しく私の髪を撫でる父の懐かしい匂いに涙が止まらなかった。

「大きくなったね・・。知らぬ間に大人になってしまったんだね。」

悲しそうな声に、私も少しだけ哀しく思った。

奪われた家族として別々に過ごす時間は長かった・・。

少しだけ、哀し気な表情のアオイはその光景を見下ろしていた。

そっと部屋を退出すると、静かに部屋の扉を閉めた。


部屋の外に出ると、下の階へと歩を急いだ。

外へとつながる階段を駆け下りて大きな庭園へと出た。

そこで、アオイは苦しそうに空を見上げた。

「・・・せっかく会えたのにな。」

この世界には神様はいないんじゃないかと・・。

無償にそう思ってしまう瞬間があった。

幸せそうだった、香澄とアルバン・・。

研究者として、必死に開発した研究を奪われて事故に巻き込まれた・・。

最愛の妻を失くして、子供とも離ればなれのまま眠り続けていた彼が目覚めた時・・。

側には、僕しかいなかった。

酷い怪我のせいで、もう長くはない彼の命の灯を今も懸命に燃やしていた。

やっと最愛の娘と会えた・・。

そして、アキラも本物の家族と会えたのに。

「どうか・・。アルバンが一年でも、半年でも、一日でも長く・・。」

神様はいないんじゃないかと嘆きながらも、祈ることしかない矛盾に
アオイは苦しんでいた。
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