天才策士は一途な愛に跪く。

聖人は、机の上の雑誌をバサッと置いた。

椅子に腰かけると、引き出しに入れてあった書類を出す。

「高遠・・。ちょっといいかな？」

聖人は、ライティングデスクの書類から顔を上げて秘書を呼んだ。

「はい、何でしょうか？？」

すぐに駆け付けた秘書に、一枚の紙を差し出した。

「・・・これは・・。一体どういう・・。」

震える声で、その紙に書かれた内容を辿ると
聖人のほうに縋るような目線を送った。

「君のマンションは、ここから遠すぎるだろ？」

「・・そこの物件のほうが近くて通いやすいよ。
これからは、そこから通うといいよ。」

聖人は、高遠の震える指にそっとその紙を握らせる。

ゆっくりと琥珀色の瞳で優しく笑った。

「だって・・。こんな！！無理です。頂けません！！！」

「君は優秀な秘書だ。近くから通勤して、しっかりと僕のサポートをして欲しいんだ。
これは、僕の我儘だから・・。気にしないでくれ。」

無言のまま、黙って紙を見つめる高遠に念押しの一言をかける。

「いいかい、薔薇の花の世話は難しいんだ・・。
大切に育ててあげないと、すぐに枯れてしまうよ。大切に育ててあげてくれ。」


その言葉に、涙を浮かべた高遠は深く聖人に礼をした。

「有難うございます・・。必ず、私があの薔薇を守ります。」

「ああ・・。お前が守るんだ。
彼や、彼の父が守りたかった物を守ってやってくれ。すぐに行きなさい・・。」

「聖人様・・。はい・・！！失礼いたします！！」

その言葉に、大きく頷くと静かにその部屋を退出した。

すれ違いざまに、瑠維が姿を現した。

その後ろからは慌てた様子で鞄を胸に抱えた遥が現れた。

驚いた聖人の前まで歩み寄る。

「・・・これは、どういう事ですか？？」

瑠維は凄まじい表情で、持ってきた雑誌を聖人の前に開いた。

急にアポイントもなしに会社に現れた瑠維に、困ったように笑う聖人の姿があった。

遥も困ったように、責め立てようとする隣の瑠維を見上げていた。

「どう・・って？？急にどうしたの南條くん。」

「記事の件ですよ！！あの記事・・。リークしたのは山科さんですよね・・。」

普段は可愛らしい大きな瞳は、攻撃的な色を帯びていた。

「それに、何だよマックスブラントって・・。
確かに名門ですよ。正直、驚きました！！
だけど、晶の人生も幸せも・・。晶が決めるんだろ！！」

瑠維の大きな声にビクともせずに、聖人は落ち着いた表情で瑠維を見ていた。

「確かに、最後は彼女自身が決める問題なんだ。
しかし、彼女にも知る権利はある・・。
それに、これで彼女を狙う者の大半が消えるんだ。」

「・・・狙う？？」