天才策士は一途な愛に跪く。
不穏な言葉に、瑠維は顔を顰めた。

「「誰とも付き合わないわ・・。私から、山科君がどうしても消えないの。」」

切なそうに笑う晶の横顔が過る・・。

遥は、苦し気に眉根を寄せて言葉を紡ごうとした。

「晶は・・、山科さんと居たいんです。」

「何年、何十年一途に思って来たと・・。
あの子がどれだけ、貴方のことを忘れられずに苦悩してきたか私は知ってます。」

気が付くと涙を浮かべた遥は、聖人を見上げていた。

鞄を握りしめる手は、赤くなっていた・・。

その言葉に、聖人の琥珀色の瞳は激しく揺れる。



「開いてるのか。
・・どうした?こんな夜更けに。騒がしいな・・。」

後ろのドアが開く音がした。

「南條くんじゃないか・・。それに、加賀くんも。」

慧が、ゆっくりと部屋に入室してくる。

「二条さん・・。こんばんわ・・。」


「こんな時間に、どうした慧・・?
 今日はやけにお客様が多い日だな・・。」


驚いた聖人は、ため息交じりに苦笑した。

「私も一緒よ!!
あのね、今日はお兄様にお願いがあって一緒に来たのよ。」

シフォンのふわりとしたセットアップを身に着けた、美桜が笑顔で
慧の後ろに続く。

「私、慧とちゃんと赤ちゃんが生まれる前に
身内だけの結婚式を挙げたいなって日頃言ってたじゃない?」

「唐突だな・・。遂にその日取りでも、決まったの?」

驚いた表情の瑠維と遥の前で、身内トークがさく裂していた。

「えーとね、ちなみにお兄様・・。明日からの連休のご予定は??」

「いや、・・・特にないけど。」

仕事を入れようにもお盆休みでどこもやってない・・。

仕事という逃げ場を塞がれて、自分でもどう過ごそうかと悩んでいた。

「あら、ラッキーだわ!!
じゃあ、今から私に付き合ってくださいますか!?」


「・・そんな直近の日取りなの!?」

驚いた表情の聖人に、満面の笑みで美桜は嬉しそうに笑った。

「そう、そのまさかです!!
さ、時間がないんでさっさと出発しますよ、お兄様!!」

「えっ・・!?おい、美桜・・!?一体、何処行くんだよ?」

ズルズルと、引きずられていく聖人の様子を呆然と見ていた
瑠維と遥に、慧が企んだ表情で笑った。

「良かったら南條くんと、加賀くんも予定がなければ
内輪だけの僕たちの式にご招待させてもらうよ?」

気が付くと、美桜と連れてきたSPに引きずられた聖人は部屋を出てしまっていた。

唐突なその言葉に、瑠維と遥は驚いて顔を見合わせた。
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