天才策士は一途な愛に跪く。
「私は、どうしたらいいの?」
誰も答えなどもたない問いが、夜空に吸い込まれて消えた。
最近の私は、私じゃないみたい・・。
自分のアイデンティティが揺らぐような経験の連続だった。
心理の仕事をしてきて、人の人生と向き合ってきた
私自身の人生こそが・・。
偽りと、虚構に満ちたものだった・・。
アオイとは許嫁だったと父からも聞いていた。
幼い頃、確かに私は絵本のような王子様のアオイが大好きだった。
「本当に皮肉ね・・。だけど、私が今一緒にいたい人はここにはいない・・。」
月を仰ぐ。
遠く離れた彼を想っていた・・。
「一緒に・・。私が、ずっと一緒にいたいと望む人とは
一緒にいれないのね・・。」
頬に一筋の涙が伝う。
「愛してる・・。」
意識を失う前に・・。
微かに聞こえた声を思い出していた。
錯覚だったのだろうか??
だけど、私が聖人の声を聴き間違えるわけなどなかった。
私は胸元のネックレスに触れる。
美しい蒼く碧にも輝く石が光り輝いていた。
なら、彼はどうして・・??
ちゃんと考えれば解る。
私には解るのに・・。
彼の思考に、苦しくなっていく・・。
「もし、そうだったら・・。」
自分にとって都合の良い解釈なのかもしれない・・。
だけど、山科聖人は・・。
私の好きになった彼は、私が知っている誰よりも優しい人だった。
琥珀色の優しい微笑みを思い出した。
私の瞳を、綺麗だと言ってくれた。
離さないって言ってくれたその手を、離すのはどんなに・・。
「そんなの・・。だとしたら馬鹿だよ。大馬鹿だよ・・!!」
月によく似た彼を想って、涙が零れ落ちた。
ベッドの上には、実家の母が私物を詰めて渡してくれたダンボールが
置き去りにされていた。
私はドイツの生家で眠れぬ夜を
一人で迎えていた。
月を見ていた。
小さな窓から延々と伸びている雲の先に柔らかい光を放つ月が輝いていた。
光を受ける聖人は美しい琥珀色の大きな瞳を物憂げに、長い睫毛は影を帯びていた。
白いシャツに黒いバンツ姿の彼は頬に手をついて静かに窓の外を眺めている。
中性の整った容姿が際立っていた。
「お兄様、眠れないんですか?」
同じく眠れぬ夜を過ごす聖人の前に、最愛の妹が柔らかい笑顔を向けて現れた。
誰も答えなどもたない問いが、夜空に吸い込まれて消えた。
最近の私は、私じゃないみたい・・。
自分のアイデンティティが揺らぐような経験の連続だった。
心理の仕事をしてきて、人の人生と向き合ってきた
私自身の人生こそが・・。
偽りと、虚構に満ちたものだった・・。
アオイとは許嫁だったと父からも聞いていた。
幼い頃、確かに私は絵本のような王子様のアオイが大好きだった。
「本当に皮肉ね・・。だけど、私が今一緒にいたい人はここにはいない・・。」
月を仰ぐ。
遠く離れた彼を想っていた・・。
「一緒に・・。私が、ずっと一緒にいたいと望む人とは
一緒にいれないのね・・。」
頬に一筋の涙が伝う。
「愛してる・・。」
意識を失う前に・・。
微かに聞こえた声を思い出していた。
錯覚だったのだろうか??
だけど、私が聖人の声を聴き間違えるわけなどなかった。
私は胸元のネックレスに触れる。
美しい蒼く碧にも輝く石が光り輝いていた。
なら、彼はどうして・・??
ちゃんと考えれば解る。
私には解るのに・・。
彼の思考に、苦しくなっていく・・。
「もし、そうだったら・・。」
自分にとって都合の良い解釈なのかもしれない・・。
だけど、山科聖人は・・。
私の好きになった彼は、私が知っている誰よりも優しい人だった。
琥珀色の優しい微笑みを思い出した。
私の瞳を、綺麗だと言ってくれた。
離さないって言ってくれたその手を、離すのはどんなに・・。
「そんなの・・。だとしたら馬鹿だよ。大馬鹿だよ・・!!」
月によく似た彼を想って、涙が零れ落ちた。
ベッドの上には、実家の母が私物を詰めて渡してくれたダンボールが
置き去りにされていた。
私はドイツの生家で眠れぬ夜を
一人で迎えていた。
月を見ていた。
小さな窓から延々と伸びている雲の先に柔らかい光を放つ月が輝いていた。
光を受ける聖人は美しい琥珀色の大きな瞳を物憂げに、長い睫毛は影を帯びていた。
白いシャツに黒いバンツ姿の彼は頬に手をついて静かに窓の外を眺めている。
中性の整った容姿が際立っていた。
「お兄様、眠れないんですか?」
同じく眠れぬ夜を過ごす聖人の前に、最愛の妹が柔らかい笑顔を向けて現れた。