天才策士は一途な愛に跪く。

「・・美桜?どうした・・。こんな時間に。」

「私も眠れないのよ・・。全く、主役の花嫁がクマだらけとか、格好がつかないからさっさと
眠ってしまいたいのにね。」

柔らかいロング丈のワンピースを身にまとった、美しい妹が首を傾げて
答えた。

「そうか・・。化粧のノリが悪くなるんだからほどほどにな。
身体だって、安定期入ってもデリケートなんだから。大事にしないと・・。」

「ドイツまではまだ8時間以上はあるんだから、到着までは眠りなさい。」

その言葉に、美桜は笑顔になる。

「あら・・。すぐに感づかれたのね!?察しがいいとハゲますよ??」


「どんな理屈だよ。相変わらずだね、美桜は・・。」

クスクスと柔らかい笑みを浮かべた聖人に、美桜はため息交じりに向き合った。

この豪奢な飛行機を提供してくれた主の想いを聞いた時から、決めていたことがあった。

「お兄様、渡したいものがあるんですけど・・。」

そう言って、もっていた黄ばんだ便せんを聖人に渡した。

不思議そうに受け取ると、内容に視線を走らせる。

青ざめていく兄を、美桜は静かに見つめていた。

「・・・これ。こんなの、まだ持っていたの?」

「ええ・・。この手紙だけは捨てられなくて。
だって、死ぬ前に決死の想いを告白した・・。お兄様から晶ちゃんへのラブレターでしょ。」

何通か遺書として書いてあった手紙を1つ1つ確認したのは私がまだ、10代の頃。

1つだけ、誰の事を書いているのか解らない内容の便せんが
ひっそりと引き出しの中に1枚だけあった。

そこには宛名は書かれてなかった・・。

だけどその中身は、胸を打つ言葉の連続だった。

困ったような兄の表情に、美桜は優しく微笑んだ。

「お兄様、ここに書かれた、お兄様の素直な気持ちを
お伝えしないままでいいの?」

「美桜・・。」

「あのねぇ・・!?気づいてないとでも思ってるの!?いつもいつも・・。
迎えの車が来るってのに・・。
何度もお兄様がわざわざ塾の帰り道にかこつけて・・。」


「・・やめなさい。その話は・・。恥ずかしくなるから。」


耳まで赤くなっている兄を見ると、美桜はクスッと嬉しそうに笑った。

便せんに書かれていたエピソードを美桜は知っていた・・。

「お兄様、たった1人なんですよ・・。晶ちゃんは、世界でたった1人。
誰の代わりにもならないんです。
それは晶ちゃんにとってもそうなんです・・!!」

「山科 聖人は・・。晶ちゃんが大好きな人は、お兄様しかいないの・・。
幸せにするのは、お兄様しかいなんです!!
彼女が欲しいのは、お兄様しかあげれない幸せだけなんですから。」





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