天才策士は一途な愛に跪く。
月夜のserenade
朝食の席での事だった。
「えっ?結婚行進曲ですか??メンデルスゾーンの・・。」
「そうだ。知人の式があってな・・。
ピアノを誰かに弾いて欲しいそうなんだが・・。」
「演奏を、晶に任せてしまってもいいかな?」
私は二つ返事で頷いて、父の頼みを了承した。
「荷物の整理をしたら練習をするね・・。私で良ければ努めさせください!!」
笑顔で父を見ると、優しい青色の瞳は嬉しそうに細められた。
「助かるよ。式は明日の夕方からこの城から少し南へ行った古城のチャペルと
ボールルームを貸切って行おうと思っている。
来客には寛いでもらえるように
スタッフは全員朝から大忙しだよ。気に入ってもらえると良いのだが・・。」
「そうですか・・。素敵な式に彩を添えられるように頑張ります!!
楽譜はお母様が持ってそうなので・・、練習を先にして来ますね。」
そう言うと、私は席を立ちピアノルームへと向かう。
給仕からカップを受け取ったアオイが、不安そうにアルバンを見つめた。
「何を考えておられるんですか??
急に他人の結婚式に、マックスブラントの城を貸すなんて・・。」
「残り少ない人生だ・・。人の幸せな旅立ちを見送る手助けをさせてもらいたくてな。
私が自分から買って出た事だ。」
そう言って、食事をとり終わったアルバンは車いすを引かれて部屋を後にした。
残ったアオイは、一人カップの紅茶を眺める。
「・・・一体、何を考えてるんだろう。叔父上は・・。」
不安気に、窓の外の新緑の景色に視線を向けてため息をついた。
私は、3時間程籠っていたピアノルームから部屋に戻る。
疲れた指をそっとマッサージをしながら楽譜を机に置いた。
モスグリーンの綺麗な壁紙の部屋の中央にあるベッドの上でドサッと身を投げ出した。
「リストの「愛の夢」と、ショパンの「ノクターン」あたりがいいかしらね・・。
あとは・・。うーん・・。新郎新婦の好みが解らないから・・。一般的な曲でいいかしら。」
考え込んで足を伸ばしていると、つま先にダンボールが当たってガバッと起きた。
「ああ・・。そうだわ・・。これも片付けなきゃ。」
実家から届いた大きなダンボールをベッドの上にそのまま置いていた。