天才策士は一途な愛に跪く。
その景色に私は目を大きく見開いていた。
「すごい・・。傘の中はお天気・・!!」
「うん。この傘を開けば、雨の日も、晴れの日になるよ。
まだ家には傘は沢山あるから、これを使って。」
「でも、これ・・。貴方の物じゃないんでしょう?」
「妹には、同じ傘を買ってあげればいいよ。
この傘は、今、きみに必要だと思うから・・。プレゼントだよ。」
そう言って笑った男の子の顔が鮮明に浮き上がって来る・・。
優しい琥珀色の瞳を細めて笑う少年は、私の大好きな笑顔を浮かべていた。
「こんな事って・・。」
私は何度泣いたんだろう。
聖人と離れてドイツに来てから、数えきれないくらい涙を流していた。
「聖人くん、・・会いた・・いよ。」
知らない間に、自分の口から零れた言葉に息が苦しくなる。
5歳の頃に出会っていた彼の笑顔・・。
私は、ずっと側にいたのに聖人の想いを全く気付かずに中学生になった。
そこで恋に落ちたのは・・・。
「僕がきみを忘れるわけないでしょ?
そこは可愛いんだけど、自覚ないんだね。変わらない・・。」
その言葉が耳に蘇る・・。
痛いくらいの胸の熱さと、呼吸が出来ない息苦しさに嗚咽を漏らした。
部屋の扉の外からノックの音が聞こえた。
「アキラ、城のチャペルの用意が出来たみたい・・。弾きに行く?」
アオイの声が聞こえて、私はハッと涙を拭った。
声が出ずに、返事を待っていたアオイはゆっくりと扉を開けて入って来た。
ベッドの上で泣き崩れている私を目視した瞬間に、
蒼い瞳を不安気に揺らしまま・・。
私の元へと駆けてきた。
「晶・・・!?どうしたの??」
肩を抱かれて、抱きしめられた私は嗚咽に痞えて声が出せずに涙を流していた。
「どうしよう・・。私、ごめんなさい・・。」
その言葉で、アオイは何かを察知した。
「それは・・。聖人が好きなのは知ってるよ・・。急いでなんかないんだ・・。」
アオイも苦しそうに私の身体を抱きしめる。
サラッと顔にかかる柔らかな金色の髪はフローラルの香りが漂う。
「ごめんなさい・・。ごめんね、アオイくん無理なの!!消えないの・・・。」
「私から、彼が・・消えない・・。」
その言葉に、瞳をぎゅうっと閉じて強く私を抱きしめた。
「解ってる・・。だけど、僕の中からも君が消えないんだ・・。」
「好きだよ・・。晶が好きだ。ずっと・・。」
絞り出すような告白を耳元で囁く。
だけど、アオイの告白も私の耳には届かない・・。
心が何処か遠くに行ってしまったような空虚感と、
切なさに私の心は支配されていた。