天才策士は一途な愛に跪く。

コンコン・・。

ノックの音は、厳かな書斎の中に響き渡る。

「どうぞ。」

そう促されて入室した聖人は、緊張気味に部屋の中央にあるデスクへと歩を進めた。

晶の水色の青い瞳と、よく似た優しい色を持つアルバンの瞳と目が合った。

「こんにちわ・・。初めまして、山科 聖人と申します。」

落ち着いた声音で、車椅子の上から優しい瞳で見上げてくるアルバンを見つめた。

「晶の父、アルバン=フォン=マックスブラントです・・。遠いところを
会いに来てくれて有難う。・・聖人くん。」

慧から、話を聞いた聖人は到着してすぐに書斎へと通された。

何故、アルバンが自分に会いたいと言っているのかを推察したが・・。

「どうして・・。どうして、僕に会いたいなんて慧に頼んだんですか?」

疑問が晴れることはなかった聖人は、不安そうな表情でアルバンを見下ろした。

アルバンは、膝の上に置いてあった一枚の封筒の中にある紙を取り出した。

晶の研究を彼女の物にするために、特許の申請をしていた書類だった。

「これは、晶のことを想って。
晶のために申請してくれたんですよね・・。
晶が落ち着いて、幸せになったタイミングで渡して欲しいと手渡されましたが・・。」

「娘に、きっとそんな日が来ることはないと思うのでお返しします。」

「・・えっ。あの・・。何を言ってるんですか?」

聖人の言葉に、優しい微笑みを見せたアルバンは聖人の傍まで車椅子を漕いだ。

そして、そっと聖人の冷たい手を取る。

驚いた琥珀色の瞳は激しく揺れていた。

「あの子は、幸せとは程遠い所にいます。・・・貴方もだ。」

鋭い言葉に聖人は動揺を隠せなかった。

「いいかい?聖人くん・・・。
君の事はこちらでも調べさせてもらった。
不幸な境遇で生きてきた君は・・。自分を責めて、一度人生を諦めようとしただろう。
そして、今回も私の事を知った君は色々な事情を加味しても
自分の気持ちを欺いて、娘のことを諦めようとしている・・。」

何も言えない聖人は、静かにアルバンの言葉を聞いていた。

「だけどね、晶が好きなのは・・。そんな優しい君だけなんだよ。」

青いビー玉のような瞳は、優しく聖人を見つめていた。

その言葉に、聖人の瞳は大きく見開かれていた・・。

< 156 / 173 >

この作品をシェア

pagetop