天才策士は一途な愛に跪く。
「君は娘のことが好きなんだろ?
私は、君の寄越したこの紙と、晶の演奏を聞いた時に思ったんだ。
とても愛しあっているんだと・・。
私だって、同じような気持ちを知っている人間なんだよ。」
アルバンの青い瞳も揺れていた。
懐かしい香澄への想いが、その瞳に溢れていた・・。
優しい眼差しで聖人を見つめている。
「そこで、私から1つ提案があって君を呼んだんだ。・・私の話を聞いてくれるかい?」
その言葉に、聖人はゴクリと喉を鳴らして頷いた。
「はい。」
その青い優しい瞳は、見たこともないくらい慈悲深いものだった。
自分の父とは違う、威厳と包容力に包まれたアルバンに聖人は魅了されていた。
「このマックスブラントを継ぐ気は・・。僕の義息子(むすこ)になる気があるかい?」
想いもよらなかったその言葉に、聖人は呆然と立ち尽くしていた。
「あの・・。僕が、貴方の義息子に??」
「アオイと、いつか結婚すればいいかと・・。
短絡的に昔はそう思っていたんだ。
だけどね、アオイも研究やピアニストになるのが夢だった・・。
晶だってそう・・。研
究職が向いてるし、家族が出来たら子どもだって育てるだろ。」
「君は、経営者に非常に向いてる。
経営学、経済学、MBAも取得しようと勉強していただろ。
山科の名前を継ぐことに拘りがあるなら別だが・・。
君の会社も世界規模で経営戦略を出している・・。
どうかな?
私はね、君のような優しく冷静な人間を・・。
何より、人の幸せのために自分を犠牲に出来るような人間に、
全てを託して逝きたいんだ。」
そっと、聖人の手を優しく握るその手は温かかった・・。
「そんな、僕にはそんな大それたことは・・。」
思いも寄らなかったその提案に、聖人の瞳は動揺を隠せなかった。
自分が、世界的にも大きなマックスブラントコンツェルンを引き受ける・・??
この優しい瞳を持つ男性が義父になるなんて・・。
家族に恵まれてこなかったのは、聖人も同じだった。
日本には、母と父がいる・・。
だけど、この人の提案は全てを守れる力を手に出来る大きな物だった。
「きみは、娘を・・。晶を、愛しているんだよね?」
真っすぐな瞳で問われ、素直な言葉を返す。