天才策士は一途な愛に跪く。
その距離感のややない男性の出現に、私は戸惑って目を瞬かせていた。

そっと肩に手を置かれた時には、ビクリと全身に震えが走った。

「あの・・。少し酔ってるんですか?ちょっと・・。大丈夫ですか?」

肩の上から手を離そうと掴むと、
その上から別の手で私の手を握られて息をのんだ。

「お優しいですね・・。
綺麗な上にカウンセラーで、聞き上手なんて最高じゃないですか!!」


なんなのよ!?

この人、本当に気持ち悪いっ!!


「・・・あの!!ちょっと離してっ・・。」

穏やかな懇親会の会場の中で出来ればモメ事は起こしたくないけど・・。

馴れ馴れしく距離を詰めてくる男の愚行にそろそろ私の堪忍袋は切れそうになっていた。

朝からセッション続きの講演で、しかも移動も色々あったし・・。

それだけでなくても、慣れないスカートのスーツと高いヒール。

夕方になって足先に少しだけつま先に痛みを感じていた。

今すぐこの場から逃げ出してしまいたい気分だった。

<もう、誰か助けて!!!>

ブツブツ呟く男をキッと睨みつけた私は、
身体を離そうと身を捩った瞬間だった。



「森丘さん。」


周りを取り囲んでいた人たちの後方から、
少し強めの口調で私を呼ぶ声がした。

私はその問いかけをした人の姿を確認した瞬間に、安心したのか目に涙が浮かんだ。

長身なので人垣の先でも、彼なのだとわかる。

私がきっと・・。

いま、一番に助けて欲しかった人だった。

「森丘さん、慧と美桜が呼んでるよ。」

圧倒的な存在感がある人物。

山科 聖人が右手にグラスを持って笑顔で私を呼んだ。

「・・・すぐにそちらに向かいます。」

人垣が真っ二つに割れて道が出来ていた。

この会社のCEOの名が出ると、誰もが恐縮したように声が止んだ。

さっきまで慣れ慣れしく私の身体に触れていた男は聖人の方を見て顔色を変えた。

私はその様子に驚いて聖人のほうへと視線を向けると、いつもの王子様スマイルで優しく私に
笑みを向けていた。

なんだろう・・・。

不思議そうに聖人のほうへ早足で歩くと、ニッコリと嬉しそうな聖人に肩を掴まれて固まる。
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