天才策士は一途な愛に跪く。
聖人は、夢見心地なその光景に頬杖をつくと
美しいその光景を、瞳を細めて見つめていた。
初めて彼女と出会った雨の日を思い出していた・・。
土砂降りの雨の中を
ケーキ屋の軒下に何時間も雨宿りしている子どもがいた。
幼児教室から、帰ろうと教室を出た時・・・。
未だに呆然と、外を見ていた小さな女の子がびしょ濡れのまま立っていた。
「・・あの子、親はいないのかな??」
「さあ・・。坊ちゃまも濡れますよ?早くお車へ・・・。」
「ちょっと待って・・!!
たしか、美桜の傘が車にあったよね。取ってくる。」
そう言って、車の中に入って傘を探した。
僕は、その中で一本の傘を見付けて笑顔になった。
「これを渡してくるから、待っててよ・・!!」
「えっ・・。坊ちゃま!??ちょっと、お待ちください・・!!」
僕は、靴がびしょ濡れになるのも構わずに車から
60mほど先のケーキ屋へと傘をさして駆け寄った。
声をかけても返事がなかった彼女の横顔をチラッと見る。
同じ年頃の女の子が肩より下を、びしょ濡れにしていた。
赤い髪と、美しい瞳の色に僕は驚いて目を見開いた。
ポツポツ滴る水の雫が、髪を濡らした少女は頬はバラ色の美しい妖精のようだった。
少女は無言のまま、悲しそうに土砂降りの景色に一人佇んでいた。
僕は、傘を手に取って開いた。
「「バサッ・・。」」
大きく広がる傘の内側の晴れた空を彼女に見せたかった・・。
「すごい・・。傘の中はお天気・・!!」
驚いて傘の天井を見上げた彼女の瞳は、そう言って細められた。
「うん。この傘を開けば、雨の日も、晴れの日になるよ。
まだ家には傘は沢山あるから、これを使って。」
「でも、これ・・。貴方の物じゃないんでしょう?」
「妹には、同じ傘を買ってあげればいいよ。
この傘は、今、きみに必要だと思うから・・。プレゼントだよ。」
「いいのかな・・。でも、嬉しい!!どうも有難う!!」
弾けるような少女の笑顔に、僕の心臓が早鐘を鳴らしていた。
輝く宝石のような蒼い瞳に、
僕は囚われたように見入ってしまった。
小学一年の時、同じ学校になったことを僕はすぐに知った。
大勢の中でも整った珍しいその容姿は、みんなの注目を浴びていた。
本人は、全くそのことに自覚がない様子だった・・。