天才策士は一途な愛に跪く。
僕にも、美桜にも・・。慧にも普通に接してくれる。

他人を見て、態度を変えることはなかった。


中学になって、父とハルの父の事件があってからは
復讐に目を向けるように、
この気持ちを気のせいだと思い込もうと・・。

出来るだけ彼女を避けるようになった。

だけど、一度だけ・・。
どうしても僕は彼女の隣の席になりたくて・・。
くじの紙を視力が悪い友人と交換して彼女の隣の席になった。


太陽に照らされた赤茶の紙は燃えるように綺麗で、青いビー玉のような瞳は
光によって色を変える・・。

そんな美しい彼女を隣から、時々盗み見ていた。

父のパソコンに侵入してデータを解析したり、深夜まで夜更かししながら
気が付くと夕方まで眠ってしまっていた時もあった。

「あ。山科くん、起きた?」

「・・・えっ!?僕・・寝てた??森丘さん、ここにいたの?」

夕焼けが広がる赤い空に、僕はびっくりしてガタッと起き上がる。

「本を読んでたの。山科くんは賢いからきっと塾とか勉強で、大変なんだね・・。」

何も言わずに、黒板が綺麗にされてあった。

日誌もびっしりと丁寧な字で書かれてあった。

「ごめん、起こしてくれれば良かったのに・・。」

「いいよ、今日は部活休みだし。大丈夫だよ。さぁ、戸締りして帰ろう!!」

笑顔が眩しくて、可愛くて・・。触れたくなった。

家族を偽物だと、居場所がないと言っていた彼女・・。

僕は幸せになるのは許されない立場なのに、復讐だけを考えなければ
ならないのに・・。

側にいる彼女の言葉や、生き方を知れば知る程・・。

どうしようもなく魅かれていった。

彼女が誘ってくれた、ピアノの発表会にも行きたかった・・。

全部なんだ・・・。

慧がいなくなって、海外で頑張っている間も僕は孤独だった。

彼女と高校から離れて、太陽が消えてしまったかのような
寂しさを覚えていた。

再会した日の笑顔に、伸びた髪に久しぶりに心が動いかされたんだ。

君からもらった言葉の全部が

僕の生きる原動力だったと今ならわかる・・。

灰色の世界に色をもたらしてくれた君の光が、届かない世界へ僕は行ってしまった・・。

渡そうとした手紙には、宛名を入れることが出来なかった。

愛しくて、触れたくて・・。

だけど、僕は父が憎くて許せなかった・・。

美しい君への想いも、どす黒い僕の感情で汚される前に・・。

深い深い眠りについた。

そんな僕の目を覚ましてくれたのが、この曲。

「月の光」だった・・。
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