天才策士は一途な愛に跪く。

晶の切ない音に胸が震えていた・・。

「愛してる・・。」


全身から震えるような切なさが溢れてくる。

「僕から、君が消えない。・・どうしても、何度消そうとしても。」


瞳が熱くなって、天上のステンドグラスを見上げた・・。

天使の描かれた美しいフラスコ画に彼女の姿を重ねた。

自分の心の中も見透かされているように感じていた・・。



私の瞳から、気が付くとまた涙が溢れていた・・。

鍵盤が見えなくなりそうになる。

だけど、この曲だけは最後までちゃんと弾きたかった。

「・・私も、愛してる。」

最後に微かに聞こえた聖人の言葉に答えるように・・。
私は、静かに目を閉じる。

最後の一小節まで、丁寧に思いを込めて奏でる。

最後の小節の音が・・チャペルに響き渡っていた。

天上を見上げると、ふと横から視線を感じて二階を見上げた。

「・・・嘘?」

信じられない・・・。

そこには聖人がいた。

私は幻でも見たのかと、もう一度だけ二階を見上げた。

そこには静かに私を見つめている聖人の姿があった。


嘘でも幻でも嬉しかった。

会いたくて、会いたくて・・・。

今すぐに飛んでいきたいくらい!!

どうしようもなく、会いたくて溜まらなかった。

愛しい人への、想いを込めたその切ないメロディーはチャペルに
響き渡っていた。

息をゆっくりと吐きながら、鍵盤はゆっくりとフィナーレを飾った。

静かだった・・。

そこは時を止めたように物音がしない。

まさしく、天上の音楽の仕上がりだった。

苦しそうに、瞳を揺らす聖人は月の光が一筋差し込む
美しいその光景にただ黙って見惚れていた。

長い赤茶の紙は金色に輝いて、普段は暗く見える青い瞳が美しく輝いていた。


私は、椅子の上から二階の聖人を見つめていた。

彼も私に気づいて静かに見つめている。

その静寂を破るように、聖人は拍手をした。

「こんな月の光・・。初めてだよ。」

「切なくて、苦しくて泣きたくなる・・。美しい調べだった。」

いつもの優しい微笑みを浮かべた聖人の様子にホッとした。

聖人の落ち着いた、大きな声がチャペルに響き渡る。

私は幻のような聴衆に目を瞬かせた。

「ありがとう・・。」

私も椅子から立ち上がった。

「あと、もう1つだけ・・。
どうしても君に言いたいことがあるんだ。
降りて行ってもいいかな?」

私は、大きく頷いて微笑んだ。
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