天才策士は一途な愛に跪く。
天才策士は一途な愛に跪く
聖人は、琥珀色の瞳を揺らして口角を上げた。
階段を降りて、チャペルのバージンロードをゆっくりとスーツ姿の聖人が歩いてくる。
背の高く、美麗な聖人はそのチャペルの中で眩いオーラを放っていた。
私も、少しずつ聖人へと少しだけ高いヒールの靴で歩き出す。
少し手前で立ち止まると、私達は向き合ったまま見つめ合った。
「見せたいものがあるんだ・・。」
一枚の紙が差し出された。
私は不安気に、聖人を見上げた。
受け取ってその書類を読むと、弾かれたように聖人を見上げた。
「これ・・。私の研究?私の名前で特許を取ってくれたの??」
「時間がかなりかかったんだ・・。でも、発表前に君のものになった。間に合ったんだ。」
「じゃあ・・。聖人くんは、私の研究が欲しかったわけじゃなかったんだ。」
「そうだよ、だって・・。君の研究はきみ自身のものだろ?」
それどころか、私の研究を守ってくれてたんだ・・。
「だけど、切り捨てるような言葉を言ってごめんね・・。
君を、行かせたかったんだ・・。
手放そうとして、また君を悲しませちゃったね。」
疑心暗鬼になってたのは私だった。
聖人の慈しむように私を見つめる瞳に胸がドキドキした。
嬉しくて、ホッとした涙で私の視界は揺れていた。
私の命も、研究も・・。
そして、父とのことも知っていて守ってくれた彼の想いが、震えるほど嬉しかった。
込み上げてくる切なさと、溢れてくる想いが噴き出してしまいそうだった。
天上に響き合うように、2人の声が重なった。
「「会いたかった。」」
私は驚いて、聖人を見る。
同じように、目を見合わせて笑った。
「なんだ・・。また被った。」
「本当だね。真似しないでよ、聖人くん・・!!」
ふざけるように、笑いながら顔を上げようとした瞬間だった。
聖人は苦しそうに眉根を寄せて、私の身体を強引に引き寄せて抱きしめた。
ムスクの香り・・。
聖人くんの香りがした。
私は、驚いたまま力強い抱擁に戸惑う。
「会いたかった・・・・。」
「会いたかったよ、晶・・。
どうやら僕は君がいないと、駄目みたいなんだ・・。」
珍しく感情の籠った声に、私はドキッと胸を鳴らす。
切なそうに、苦しそうに絞り出されたその声は
嘘偽りない真実を告げているように思えた。
泣いているような声に私は驚いて、顔を上げた。
「恥ずかしいから、見ないで・・。」
そう言いながら、瞳を閉じたまま私を抱きしめる
聖人の鼓動が、耳に聞こえてくる。
本物だ・・。
これは、本物の聖人くんなんだ。
気が付くと、私の瞳からも涙が零れていた。
嬉しいのに、苦しくて・・。
呼吸が出来ない。
「わた・・しも。わたしも会いたかった・・。」
「嫌なの、離れたくないの!!離さないでよ、お願いだから・・・。」
その言葉に、私を抱きしめる腕は更に強みを帯びる。
温かさが全身を包んでいた。