天才策士は一途な愛に跪く。
一人で百面相を交互にしていた。

気が付くと、聖人は笑顔でその模様を楽しんでいたようだった。

聖人は、ムッとした表情の私に微笑んだ。

「森丘さんてさ、ダダ漏れだよね・・。」

「ダダ漏れって、何がですか?」

嬉しそうに私をのぞき込みながらほほ笑んでる王子は
その先を言わずに私を笑顔のまま見つめる。

これは・・遊ばれているのかしら。

何なんだろう。

このディスコミュニケーション。

「あの・・。えーと・・・。」

「とりあえず・・、お、お久しぶりです。」

「久しぶり。会いたかったよ。森丘さん。」


「「わたしも!!山科くんにずっと会いたかった・・・。」」


そんな風に包み隠さずに自分の気持ちを言えるなら、
かれこれ20年近く片思いなぞしてない訳で・・。


「そんな・・。あの恐縮です!!
美桜ちゃんにはいつもいつもお世話になってばかりで・・。」


ロビーに響き渡るぐらいの大きな声で恐縮の意を伝えると、聖人は更にゲラゲラと笑う。

・・やっぱり遊ばれているのかしら!?

喋りのプロであるカウンセラーが弄ばれてる・・。

やっぱり未だに山科聖人に勝てる気はしない。

「からかっている訳じゃないよ。
嘘じゃないんだ。ずっと・・。本当に君に会いたかったんだ。」

聖人が急にコホンと改まった咳払いをして、
私のほうへと身体を向けると私の手にそっと触れる。

「・・ええっ。手!!山科くん、手が!!」

焦って大声で騒ぐ私の手をぎゅうっと更に強く握る。

「えええっ!??何?」

「森丘さんに2人だけで話したいことがあるって言ったでしょ。」

掴まれた手の熱さと、ムスクの香りにくらくらしていた。

「うん・・。聞くよ?」

今すぐ死ねるぐらいの速さで私の心臓は早鐘を打っていた。

もう会えないと思っていた彼が現れて、私の手を握ってる。

夢のようだけど、夢じゃない

嬉しい現実に対応しきれない
自分の恋愛偏差値の低さに愕然とする・・。

くらりと緊張のあまり眩暈を覚えそうになる。

「森丘 晶さん。・・今日は君に、ビジネスの話をしに来たんだ。」
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