天才策士は一途な愛に跪く。

「ビジネスって・・。
山科メディカルのCEOの貴方が、わたしにですか?」

ハッと現実に戻った私は、目の前で真剣な瞳で見つめる聖人へと視線を戻した。

「今度立ち上げる山科メディカルの新規事業は、
脳科学分野の研究の推進を目指すものなんだ。
だから、日本でその道の研究の第一人者である君に僕の会社に来て欲しい。
それも、出来るだけ早い時期に・・。」

ビジネスって・・。

引き抜きの話なの!??

「そんな、私・・二条の研究者ですよ?
それに本社でのカウンセラーのお仕事もあるし・・。
あまりに性急なお話すぎて困ります・・。」

思いがけない申し出に、
私は目を白黒させて激しい動揺を隠せずにいた。

「慧には了解済みだよ。
もちろん、うちの会社のラボに君がいつでも使えるようにF-MRIも
設置するように手配している。
うちでもファンクションMRIを使いこなせる人材はそう多くないんだ。
カウンセリングはうちのラボからなら、二条ホールディングスの本社は車で15分ほどの距離だよ。」

F-MRIは私の大学院時代に使っていた日本でもまだ珍しいMRI機器。

悪くない話だった。

それに、あの山科聖人が私を必要としてくれている。

私の困り果てた表情に息を殺したように琥珀色の綺麗な瞳が見つめていた。

「少し・・。考えさせてもらえませんか?
今、投稿して査読中の英語の論文があって・・。」

「知ってる。その研究も含めて・・・。君にうちに来てほしいと思ってる。」

美桜にも翻訳を手伝ってもらって作成した大学院時代からの
継続研究が昨年完成したばかりだった。

人間の脳機能の未開の部分を読み解くための第一歩となる研究で、
さまざまな海外の投稿紙の中でも絞り込んで投稿した力作の研究だった。

「守りたいんだ。今度は、君も・・。君の研究ごとね。」

何かを決意した表情の聖人の強い眼差しに、私の心は強く揺さぶられる。

「「今度は・・?」」

今のはどういう意味なんだろう。

単純で気軽な誘い話じゃないような気がした。

何か深い意図のある申し出なの・・?

「山科くん・・、今のどういう意味?全然話が判らなくて・・。」

熱い眼差しと意味深な言葉に私は不安が過った。

彼のほうへと身体を向けた時だった。

「あーっ。」

山科 聖人の後方から見知った男性が声をかけてきた。

「晶!!!晶じゃないか??」

茶色のパーマのかかったふわっとした髪に、ストライプのスーツ姿。
まるで愛玩犬のような童顔クリクリな瞳を輝かせた男性が私に向かって手をふる。

「瑠維!?なんで??」
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