天才策士は一途な愛に跪く。
雨に降られた正午の出会い。
「はぁ。・・・もう何よ。これ・・。」
私は会社のエントランスの前で大きなため息交じりの荒い息を吐く。
目の前には土砂降りの景色。
今日は私が初めて行う会社でのEAPプログラムについての講演会の日だった。
都内の本社で開かれる予定になっていたのだが、急遽グループワークがしやすいとの理由で
数日前に会場を子会社にある大きなホールを貸切って行うことになったのだ。
「今日は雨の予報じゃなかかったから折り畳みも持ってない・・。最悪だわ!!」
いつもよりカウンセリングの予約が多く入っていた為に時間ギリギリの移動になったのだった。
呆然と辺りを見渡すと同じように途方に暮れた様子の社員が数名目に入る。
時計の針は講演会の開始時刻の1時間前を指していた。
駅までは徒歩で7分。
そこから電車で15分。そこから子会社のビルまでは徒歩10分以上かかる。
会場に着くまでにはずぶ濡れになってしまう。
「タクシー使う??」
「受付で呼んでもらおうかな。」
後ろからそんな声がした。
「・・・私もタクシー呼ぶしかないわね。」
私の人生はいつもこんな感じ。
思い出せば初めて親に開いてもらった
5歳の誕生日パーティーの日も土砂降りだった。
私は長い背中までの髪を無意識に触りながら思案するように振り返った。