天才策士は一途な愛に跪く。
見覚えのある男性の登場に目を白黒させて驚く。

私は席を立ちあがると、大きな声で彼の名前を呼んだ。

「ここで会食があったんだよ。
なんだよ、この間の教授の誕生会ぶりじゃん。
晶こそ、どうしてこんな所にいるんだよー。」

嬉しそうに駆け寄ってくる彼の手前にいた
聖人の表情などその時の私は気づいていなかった。

大学院時代は同じ研究室で毎日研究三昧の日々を送っていた同志のような存在。

南條瑠維(なんじょうるい)との
再会に私はさっきまでの緊張感が吹き飛んだように笑っていた。

「今日は、二条の研修の一環でEAPの講演会をした後で、ここで懇親会をしている最中なのよ。
まさかこんな場所で会えるなんて!びっくりしたわ。」

「それはこっちのセリフだよ。さっきまでお堅い接待会食でさ・・・。
美味しいコースも仕事の話が会話の大半じゃ全然、味がしないんだよなー。」

ネクタイを緩めながら、ため息交じりの表情で私の目の前でおどけた表情を向ける
瑠維を静かに聖人は椅子に腰かけたまま見上げていた。

ハッと気づいた私は、急いで聖人に声をかける。

「あの・・!!山科くん、彼は大学院時代の同期の南條 瑠維です。
お話し中だったのにごめんなさい・・。」

その言葉を伝えると、聖人はいつもの美しい王子様スマイルを顔に浮かべて立ち上がった。

「初めまして。
森丘さんの同級生で同郷出身の山科 聖人です。
今日は森丘さんの講演を聞きに参りました。どうぞ宜しく。」

スラリとした肢体でサッと手を差し伸べた聖人の姿を見て、
瑠維は驚いたように固まる。

「は・・・。山科聖人って・・。
山科メディカルの現CEOじゃないですか。
そのトップが・・。なんで晶なんかの講演に!?」

「ちょっと・・!!なんかって何よ・・。
だから今回の講演に山科くんの妹さんの開発したスケールを
使用させてもらったのよ。二条グループと山科メディカルは業務提供も以前からしていたし。
それより瑠維、山科くんに失礼でしょ!!ちゃんとご挨拶しなさいよ。」

私の言葉を無視して聖人に不躾な視線を送る瑠維に苛立ちを覚えた。

「ああ。ごめんごめん。
南條 瑠維です。晶がお世話になったようで。
こちらこそ宜しくお願いします。」

差し出された手をそっと取って握手をした瑠維は、挑戦的な笑みを浮かべた。

その表情に少しだけ聖人の表情が鋭さを持った。

何?

何だろうこの変な緊張感・・。

「南條って・・。君、南條ハイテクノロジーのご令息かな?」

「あー、はい。・・・そうですよ。一応、現研究者で一社員の身ですけどね。」

< 20 / 173 >

この作品をシェア

pagetop