天才策士は一途な愛に跪く。
視線は相手の目を捉えながら、2人の御曹司たちがスマートに向き合っていた。

迫力のある絵にロビーを通り過ぎる人たちは私たちをチラチラと見ていた。
私も居たたまれない不安で一杯になっていた。

「研究もなさっているなんて素晴らしいですね。
お父様も息子さんを誇らしくお思いでしょうね・・。
同じ業界で働く身なので、南條さんとはまたいずれ何処かでお目にかかる機会はあるでしょうね。」

「・・そんな。研究にかこつけて家に帰らないでバイト三昧で遊んでましたから、、身に
なったかどうかは怪しいもんなんですがね。山科さんみたいにカリスマ性のある経営者を見ると
僕も頑張らないとって・・励みになりますよ。」

瑠維は聖人に恥ずかしそうに笑いかけた。

さっき一瞬流れた不穏な空気は何だったんだろう?

私は変な汗をかきながら2人のやり取りをハラハラしながら眺めていた。

「そうだ・・。折角の機会でしょうから、森丘さんとゆっくりお話ししてください。
気が利かなくて失礼しました。森丘さん、僕は先に会場に戻っているね。」

スッと手を引いた聖人は落ち着いた表情でニッコリと笑った。

優しく思いやりに溢れたような笑顔でほほ笑まれた瑠維はポカンとした顔で聖人を
見ていた。

「あ、・・こちらこそ。
俺のほうこそ、お二人のお話の邪魔をしたみたいですみません・・。」

「お気になさらず。
それでは、まだパーティの最中ですので、お先に失礼します。・・では。」

丁寧にお辞儀をした聖人を私は不安そうに見つめた。

振り向きざまに目があったが、聖人は少しだけ寂しそうな笑みを私に向けて踵を返した。

聖人の時々見せる不安そうな時のサインのように感じて不安になる。

「・・・・。」

長い脚で颯爽と歩く後ろ姿を、私は何も言えずに黙って見ていた。

すぐにその美しい背中が、大きな扉の先に消えた。


「おい!!何だよあの気配りの人!!
・・めちゃめちゃ格好いいじゃん。」

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