天才策士は一途な愛に跪く。
「自己中じゃないよ。
きっと、理由があったんだと思う・・。
他って言うけど・・。
私、別に・・。彼氏が欲しいわけじゃないし!!
彼だから好きになったんだよ・・。」
私の隣でいつも輝いていた聖人だけじゃなくて、
時々見せる何かに焦る表情や、苦しそうに眉根を寄せて考え込んでいる時・・・。
私のことを理解しようと話しかけてくれた時。
私のピアノを嬉しそうに聞いてくれた彼の笑顔を見た時、
その笑顔だけで私は幸せになれた。
「見返りが欲しいんじゃないの。馬鹿瑠維っ!
そういう気持ちって、理屈じゃ説明できないの!!」
「は?なんでだよ!わかんないなー。
お前そんなんで大丈夫なのかよ。
いつか偶然、またそいつに会えたらお前どうすんの?」
「そりゃ会いたいけど・・。もう、会えないもの。
それに奇跡が起こっても、私なんか忘れられてるかもしれないじゃん。」
「馬鹿は晶だろ?
そうじゃなくて、奇跡的なその「もしも」があったら?」
「もしも、また彼にもう一度会えたら・・。
今度は、あの日に伝えられなかった言葉を伝えたい。」
「そうか!!そうだな・・。
奇跡じゃなくて、そんな運命がもし待ってたら行くしかないだろうよ。
飛び込むしかないよ。不安でも怖くてもさ。」
彼が死んだと聞いていた私は、「もしも」は起きないと思っていた。
友人たちにもその部分は、伝えることが出来なかった。
その「もしも」が、今日起こって、私は戸惑いを隠せなかった・・。
「行けよ、晶!!」
瑠維は満面の笑みを私に向けた。
私は決意を込めた瞳で、大きく頷いた。
何処かで現実味のない想像の未来だった。
そんな明日が来るなんてあの時は心底想像していなかったから。
瑠維に語った言葉がハッキリと浮かんだ。
次の瞬間、私の脳裏に聖人の苦しそうな表情が映し出された。
「山科メディカルに来てほしい・・。」
「守りたいんだ・・。今度こそ。」
さっきの聖人の言葉を思い出すと胸が苦しくなった。
必死な顔で私に来てほしいと望んだ。
慎重で真面目な聖人が、何の考えもなしに言った言葉じゃなかったはずなのに。
何を迷うことがあるんだろう
「今度はちゃんと伝えるんだろ?行けよ、晶。」
私は聖人の傍にいたい。
例えそれがビジネスが理由なのだとしても、彼が望んでくれるなら
迷うことなんてないはずなのに。
「そうだよね・・。そうだった!!
私、また彼を一人にしちゃうとこだった。今度こそ間違えちゃダメだよね。
わたし、会場に戻って話してくるね!!」
ボソッと呟いた言葉に瑠維は不安そうにこちらを眉根を寄せて見つめていた。
「ああ・・。また今度、酒でも奢れよ。」
「瑠維、色々ありがとう!!」
「だけど奢りは御免よ!割り勘で宜しくね!!またね、瑠維っ。」
「なんだよそれ。解ったよ、割り勘で飲もうな。」
大きく笑顔で頷いた私は前を向いて走り出した。
重厚なカーペットの上で疲れ切った足を思い切り蹴り上げるように早く走った。
一歩でも早く聖人の元へと届くように。