天才策士は一途な愛に跪く。
私は息を大きく吐いた。
ホールに続く扉のドアノブの前に立つ。
中からは軽快な音楽と人の楽しそうな話し声が聞こえて来る。
重厚な扉に手をかけて、そっと押すものの
開くのにさえもかなりの力が必要だった。
「うっ。お、重い・・。」
自分の非力さに涙が出そう!
ギギギギ・・・
重い両開きの扉を開けて中に入ると、
楽しそうに食事を取り分ける人や、お酒を片手に談笑する人々の姿があった。
さっきよりも散り散りに広がり、思い思いの場所へと移動して寛いでいた。
空調は効いていて過ごしやすさはあったし、軽快なピアノ演奏が始まっていた。
その雰囲気に一瞬圧倒されたが、私が戻ったことに気がついて挨拶で人垣が出来る前に、
壁の端を移動しながら聖人の姿を探していた。
きっと彼の側には・・・。
キョロキョロと歩きながら会場を見渡す。
「あ・・っ!!」
その光景に、足が竦んで立ち止まる。
女性たちが群がるようにしていた群衆の中に、聖人を見つけた私は一瞬息を飲んだ。
駄目だ・・。
まるで中学のときみたい。
私もあの頃と変わってないのね。
人垣の中へと足を向ける勇気が出なくてその場に棒立ちになった。
その時、私に気づいた様子の聖人が驚いた様子で私を見ていた。
私は聖人から視線を反らしてしまった。
「何やってるんだろう、私は・・。」
壁際に移動して、寄りかかるとぎゅっと目を閉じた。
そんな時だった。
華やかな照明の光が落とされパッと辺りが薄暗くなる。
ピアノの演奏が切り替わった瞬間、
ライトが消えてホールは暗くなってミラーボールが点灯した。
私は驚いて辺りを不安そうに見渡していた。
「なに?すごい演出だね!!綺麗。」
女子社員たちは嬉しそうに騒いでいた。
ピアニストの女性がリクエストに応じて、モーツァルトをピアノソナタを奏でていた。
切ないパッセージを奏でる音に気をとられながら
棒立ちになっていた。
うっとりと雰囲気に酔いしれている聴衆を眺めながら、耳はピアノの音を捉えていた。
暗くなったホールの中にいる聖人を探すことを一旦諦めた私はため息混じりに呟いた。
「真っ暗で、こんなに大勢の中でなんて見つけられる気がしない・・。」
人がザワザワと食事が並べられているテーブルや、
椅子の置かれた丸テーブルサイドに連なり、沢山の人々の会話の音で溢れ帰る室内では、
私の耳は色々な音を拾いすぎてしまう。
音に対して拘り、向き合った時間が長かったせいで音からの情報量は多く受けとるようになってしまった。
ピアニストが奏でる1音1音も、私の耳にはよく届く。
ピアノの音だけを拾うように私はそっと壁に凭れて、瞳を閉じた。
その時に、耳もとであのムスクの香りが漂った。
「「えっ・・この香りは。」」
ホールに続く扉のドアノブの前に立つ。
中からは軽快な音楽と人の楽しそうな話し声が聞こえて来る。
重厚な扉に手をかけて、そっと押すものの
開くのにさえもかなりの力が必要だった。
「うっ。お、重い・・。」
自分の非力さに涙が出そう!
ギギギギ・・・
重い両開きの扉を開けて中に入ると、
楽しそうに食事を取り分ける人や、お酒を片手に談笑する人々の姿があった。
さっきよりも散り散りに広がり、思い思いの場所へと移動して寛いでいた。
空調は効いていて過ごしやすさはあったし、軽快なピアノ演奏が始まっていた。
その雰囲気に一瞬圧倒されたが、私が戻ったことに気がついて挨拶で人垣が出来る前に、
壁の端を移動しながら聖人の姿を探していた。
きっと彼の側には・・・。
キョロキョロと歩きながら会場を見渡す。
「あ・・っ!!」
その光景に、足が竦んで立ち止まる。
女性たちが群がるようにしていた群衆の中に、聖人を見つけた私は一瞬息を飲んだ。
駄目だ・・。
まるで中学のときみたい。
私もあの頃と変わってないのね。
人垣の中へと足を向ける勇気が出なくてその場に棒立ちになった。
その時、私に気づいた様子の聖人が驚いた様子で私を見ていた。
私は聖人から視線を反らしてしまった。
「何やってるんだろう、私は・・。」
壁際に移動して、寄りかかるとぎゅっと目を閉じた。
そんな時だった。
華やかな照明の光が落とされパッと辺りが薄暗くなる。
ピアノの演奏が切り替わった瞬間、
ライトが消えてホールは暗くなってミラーボールが点灯した。
私は驚いて辺りを不安そうに見渡していた。
「なに?すごい演出だね!!綺麗。」
女子社員たちは嬉しそうに騒いでいた。
ピアニストの女性がリクエストに応じて、モーツァルトをピアノソナタを奏でていた。
切ないパッセージを奏でる音に気をとられながら
棒立ちになっていた。
うっとりと雰囲気に酔いしれている聴衆を眺めながら、耳はピアノの音を捉えていた。
暗くなったホールの中にいる聖人を探すことを一旦諦めた私はため息混じりに呟いた。
「真っ暗で、こんなに大勢の中でなんて見つけられる気がしない・・。」
人がザワザワと食事が並べられているテーブルや、
椅子の置かれた丸テーブルサイドに連なり、沢山の人々の会話の音で溢れ帰る室内では、
私の耳は色々な音を拾いすぎてしまう。
音に対して拘り、向き合った時間が長かったせいで音からの情報量は多く受けとるようになってしまった。
ピアニストが奏でる1音1音も、私の耳にはよく届く。
ピアノの音だけを拾うように私はそっと壁に凭れて、瞳を閉じた。
その時に、耳もとであのムスクの香りが漂った。
「「えっ・・この香りは。」」