天才策士は一途な愛に跪く。

「行くよー!!」

遥の気合の入った声に振り向くと白いボールが宙に投げられる。

珍しく快晴が広がる空を私は眩しそうに見上げた。

山科メディカルへの入社の前に、引継ぎを終えた私に二条くんは全く使用していなかった
有休消化を進めてくれて、少し早めの夏休みを取ることにした。

7月の三連休を使って、南の海へとゼミの仲間4人で遊びに来たのだった。

「よっしゃ、来い!!」

少し長めの髪に、眼鏡をかけた知的な容貌と、研究職を彷彿させる色白のひょろっとした肉体を持つ
ゼミの同期の田辺 怜(たなべ れい)は、気合の入ったサーブを繰り出す賀川 遥(かがわ はるか)
の強烈なボールを受けて吹き飛んだ。

バイン!!と聞いたことのないような強烈な音がした。

「怜、大丈夫??」

「大丈夫・・。」

私の心配そうな声に怜は恥ずかしそうに眉を下げた。

「あはははっ。何やってんのよ怜っ!!外出てないで講義以外はどうせ研究ばっかしてるんでしょ?」

「は?全然、そんな事ないって。たまにフットサルぐらいはしてるよ!!」

砂に突っ込んだまま起きれずにいた怜は、不服そうに起き上がってボールを瑠維へと繰り出す。

「ほらっ、瑠維そっちにボール行ったー。」

鍛えた肉体と、アンバランスな可愛い外見を持つ瑠維は怜を笑うとボールを余裕の表情でレシーブする。

「任せろ!!晶、そっちに行くぞ!」

大きな瞳は好奇心旺盛さを映し出していた。

聖人とはまたタイプの違う、アイドルのような可愛さがある。

女の私から見てもそこらへんの女子より可愛いくて、昔から羨ましかった。

ボーッと様子を見て楽しんでいた私の前に勢いがあるボールが飛んできて、急いで受けようと
両手を挙げた。

「うわあっ。」

が、全然ボールの落下スピードには間に合わなかった。

砂に足を取られて、後ろへと仰け反って倒れそうになる。

ガシッ。

大きな身体で抱き留められて、背中の痛みは全くなかった。

「大丈夫かよ、晶!!
怜といい、外出てないで研究ばっかして身体が鈍っちまってるんじゃないか?」

「ばっ・・。鈍ってないよ!!ちょっと砂に足を取られただけだし。」

抱き留められた姿勢で瑠維が私の腕をしっかりと支えていた。




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