天才策士は一途な愛に跪く。
大きなビー玉のような瞳は見たこともない色で、僕は驚いて食い入るように見つめていた。

彫りが深くて、整った容姿。
身長は小さな男子よりも高くスラリとした肢体。

ジーパンにパーカーに、スニーカーの出で立ちで嬉しそうに本を夢中で読んでいた。

そうだ、あの時・・。
僕は母を基準に女性を見ていたから理想は高くなってしまうから
そんな女性は現れないだろうと高をくくっていた。

高校くらいになると、それは現実味を帯びてきた。
気がつけば、惹かれる存在じゃなくても妥協して気軽に色々な女性と付き合っていた。

だけど、あの日。

女性を初めて綺麗だと・・思ったんだ。


「それさ、・・・本物なの?」

本を読み続けていた晶に初めて声をかけた。

「それって何?」

軽くみられるような服装をしていたあの頃。
チェックのシャツに、チノパン姿で髪も無造作に流して茶髪に染めていた俺を驚いたように
見上げた晶と目があった瞬間・・・。

その不思議な目の色に吸い込まれそうになって、ドキッとした。

「目だよ・・。カラコン??そんな中途半端な色のカラコン、見たことないからさ。」

そう言いながら、荷物を椅子にドカッと下して彼女の向かい側の椅子へと腰を下ろした。

不躾な質問に、晶は丁寧に本を机に置いて俺の方を向いて笑った。

「っはは・・。あははは。すごいストレートだね!!カラコンじゃないよ。天然ものなの。」

その言葉に僕は大きく目を見開いた。
彼女の赤い髪も、不思議な瞳の色も・・。

全部生まれたままの彼女の容姿だった。

「そっか・・。綺麗だな!」

春の桜が満開の昼下がりの教室で、僕らは2人テーブルを挟んで向かい合ってた。

「有難う。そんな風にストレートに聞かれたの初めてだから・・。笑っちゃってごめんね。」

ザアッ・・・。

窓から強い風が入ってきて、予め教授が置いておいたプリント類が部屋中に舞い散った。

「うわ・・っ。最悪・・。」

拾うのも一苦労だよ・・。

床一面プリントだらけじゃん。

「ねえ、風が強いんだけど・・。ペーパー飛ばされちゃうし、窓閉めてもいいかな?」

「ああ。そうだな・・。これ以上ぐちゃぐちゃになったら困るし。」

2人で立ち上がって開かれた窓を閉めに向かう。
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