天才策士は一途な愛に跪く。
長い彼女の髪が風に流されてふわりと舞う。

綺麗な赤茶の髪が僕の目と鼻の先にまで届いて驚いた。

「あっ・・。」

強い風に乗って桜の花びらが教室の中に迷い込んで来る。

今すぐに閉めなきゃ・・・。

またプリントで部屋中がぐちゃぐちゃになるのに。

「綺麗だね・・。桜の花。
こんなの、今この瞬間しか見れない景色だもんね・・。」

窓を閉めるのも忘れて、彼女は桜並木を見下ろした。
床にはプリントが散らばり、窓から入ってくる
ピンク色の桜の花びらが舞ってた。

「あ・・。頭に花びら。」

嬉しそうに、身を乗り出して下をのぞき込んでいた彼女の
頭にピンク色の花びらが乗っていた。

彼女の頭に乗った花びらを取ってあげた時・・。

彼女が「ありがとう。」と僕を見て綺麗な瞳を細めて嬉しそうにほほ笑んだ。
肌の白さと、髪の朱のコントラストが眩しかった・・。

その後で散々に散らかったプリントを2人で苦労して集めたけど・・・。
何度もプリントを拾い集める彼女をチラ見していた。

さっきの彼女の「ありがとう」の光景が目に焼き付いて離れなかった。

側にいれば目を反らしたくなる光景も沢山あった・・。

「ごめんなさい・・・。好きな人がいるの。」

彼女が誰かの想いを
迷いなく断っている光景を何度見ただろう。

自分がうっかり、見とれるほどの美しさを持った
「森丘 晶」がモテない
わけがなかった。

優しくて、思いやりもある上に、研究でも教授たちから一目を置かれていた。
最新鋭の機器を自由自在に使いこなしていた彼女を上級生ですら羨望の眼差しで見ていた。

「瑠維?また別れたの??」

白衣を脱ぎながら呆れた顔で晶は俺を窘めた。

「そう。もう、終わったの。」

「終わったって・・。白波さんの何処が不服なの?
瑠維にはもったいないくらいじゃない!?」

「・・価値観の不一致とかかな?
そんな事よりさ、今日はバイトないだろ?今からみんなで飲みに行こーぜ!!」

「はぁ・・。いいよ。なんか、瑠維が理解出来ない。」

理解しなくていいよ・・。

俺の気持ちは俺でも分からないから。

少し寂しそうな表情が滲んだ瞬間、晶が笑顔で言った。

「でも、意味わかんないとこも含めて瑠維なんだよ。
瑠維の良いところをちゃんと解ってくれる人、きっといるよ。」

薄い水色のシフォンブラウスが似合ってた。

綺麗な青い瞳で僕を少しだけ見上げて笑う。

少しだけ、触れたくなった・・。
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