天才策士は一途な愛に跪く。
「当たり前だろ・・!!俺を好きな女は、星の数ほどいるしな。」
彼女の前では強がりしか出なかった。
そうだ・・。
いつもそうだった。
「あははは。自画自賛してる男はモテないよ?
でも、そう。その勢いだよ。
今夜は沢山飲むわよ!!瑠維のオゴリね。」
自分の本当の気持ちを隠すのに必死だったんだ。
「おい!!そこはせめて割り勘だろ!別れて傷心なんだからさ。」
「はいはい・・。傷心なら割り勘ね。割り勘ならチェーン店にしてよ!!」
彼女がブツブツ文句をいいながら携帯で店を探している姿を、嬉しそうに見つめていた。
傷心なんかじゃなかった・・。
いつも、俺が一緒にいたかったのは・・晶だった。
「忘れられない人がいるの。彼とは、きっともう二度と会えないのに・・。」
そんな奴忘れちゃえよ!!
俺がいる。
俺は絶対お前の傍からいなくなったりしないのに。
いつだってそんな本音をひたすら隠す。
君の恋バナなんか聞きたくない!
そんな男、現れなきゃいいのに・・。
そしたら・・。
晶の傍にいるのは・・。きっと最期に晶が選んでくれるのは俺なんだ。
根拠のない夢をずっと抱いていた。
大学院を卒業して社会人になってからは
告白されても付き合うまでには至らなかった。
だって俺は、いつか晶が初恋の男を諦めたその時に、
一番近くで彼女を受け止めようと思ってたから。
こんなズルい俺に天罰が落ちたのは3週間前の雨の日だった。
父も同席したお得意様との接待の会食を終えたあの日・・・。
ロビーで見たこともない笑顔で男と話す晶を見つけた時。
山科 聖人・・。
彼女の隣にいた男は、日本でも屈指の起業家であり落ち着いた美貌の好青年だった。
敗北感ととも芽生えた言いようのない不安と、父の一致しない言動に
生まれて初めて言いようのない恐怖を感じたんだ。