天才策士は一途な愛に跪く。
どうしてここにいるのか解らない・・。

私は、無我夢中で走った。
部屋には戻りたくなくて、中二階の誰もいないロビーの端のソファセットに
腰かけたまま動けなくなっていた。

夕方の楽しかったビーチバレーやBBQが遠い過去のように感じた。

「好きなんだ・・。」

瑠維の熱い瞳の熱に、私は激しく動揺した。

見たことのない男らしい眼差しと、真摯な想い・・。

「あんなのズルいよ。誰だって・・ドキドキしちゃうじゃん。」

瑠維の本気の顔なんて今まで見たことなかった。

いつも適当で、楽しいことが大好きで、だけどいつもみんなに優しかった。
空気を読んでいつも周りを明るく照らしてくれる。

私には太陽のような人だった。

一緒にいると眩しくて、温かい気持ちになる人。

私の好きな人とは真逆だと思っていた・・。

山科聖人は例えるなら月のような人だった。
気づいたら雲に隠されていつの間にかいなくなる。

だけど、柔らかくて優しい光で漆黒の夜を照らしてくれる。
そんな強くて柔らかい光を持つ人。

会いたい・・・。

こんな時に山科くんが側にいてくれたらいいのに。



ブブ・・。ブブブブ・・・。

バッグに入ったままだった携帯を取り出すと、着信表示を見て息を飲んだ。

私は慌てて、携帯電話の通話をタップする。

「もしもし?」

恐る恐る震える声を絞り出した。

「「森丘さん?まだ起きてたかな。急にごめん・・。」」

「「旅行中だって聞いてたけど少しだけ、君の声が聴きたくなったんだ。」」

聖人の柔らかい声に言いようのない安心感が胸に広がる。

ボサボサになった髪を片手で梳かしながら、
大好きな人からの電話に心が温かくなる。


「「何かあった?元気ないみたいだけど・・。」」

声のトーンだけで何かを察した様子の聖人にドキリと顔が強張る。

エスパーですか?!

そんなツッコミを入れたくなるような読心ぷりに恐怖感さえ感じた。
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