天才策士は一途な愛に跪く。
「今日は移動もあったし、疲れただけ。
山科くんはまだお仕事??」

「「うん。さっきまで仕事のパーティで、車で帰宅途中なんだ。
不思議だね。君の声を聴くと疲れが吹き飛ぶよ。」」

「本当に?嬉しいな・・。
わたしも、少し元気になったよ。」

多忙な中で、私を思い出して連絡をくれたことが嬉しかった。

自然と口元が綻んで嬉しさを隠せなかった。

少しだけ沈黙が流れた。

頭の中に浮かんでくる言葉はたった一言だけだった。

聖人に今すぐに・・。

「「 会いたい。 」」

聖人の声と私の声が重なって同じ言葉を形作った。

「「何かあったでしょ?声に力がないように感じるんだけどな。」」

「・・ううん。全然!!大丈夫だよ。」

「「君の「大丈夫」が当てにならないことは、僕がよく知ってる。
僕に言いづらいことなのかな。」」

相変わらずエスパー並みの勘の鋭さ。

私の半音上がりの声だけで気持ちを類推していた彼だった。

「本当に何でもないの・・。ただ、会いたいなって思ったの。
星がね、すごく奇麗で。山科くんにも見せたいなって思っただけだよ。」

その気持ちは本当だった。

こんな夜に、こんな景色を彼に見せたいって思った。

「「・・・今すぐに会いに行こうか?」」

「「君のいるとこなら何処へでも飛んで行くよ。」」

優しい言葉をかけられると胸が熱くなる。

「何言ってるの・・。そんなの無茶苦茶だよ。
私たち、1500km以上離れてるところにいるんだよ。」

今の私にはそんなもったいない贅沢なんて願えない

瑠維と明日からどう接すればいいか解らない。

いっそ、私がいない方が瑠維も楽になるのかもしれない・・。
さっきから瑠維の傷ついたような表情が何度もグルグル蘇ってくる。

「「そんな距離・・。今までの会えなかった15年に比べたら大したことないよ。」」

「「待ってて、晶。すぐに側に行くから・・・。」」

通話が切れた音に私は驚いて立ち上がった。

「えっ?ちょ・・っ。山科くん???」

不通の通話音が耳に鳴り響いている。

聖人の最後の言葉は、、、。

私に会いに来るの??

・・・今から!!??

冗談だよね?

「はー・・。何か、最近。人生疲れる・・・。」

ガクりと膝に力が入らずに腰が砕けていた。

でも、本当だったらどうしよう!!?

私は信じられないような形相で持っていた携帯電話を見つめて、ソファへとへたり込んだ。

< 50 / 173 >

この作品をシェア

pagetop