天才策士は一途な愛に跪く。

ピッ。

長い指で携帯の通話ボタンをオフにした聖人は秘書を見上げた。

「聖人様、先ほど、行先を変更してドライバーには伝えてあります。
あと１５分ほどで空港に到着します。」

「そっか・・。優秀だね、君は。」

瞳を細めて爽やかな笑みで頷いた。

「今からならギャラクシーフライトがあるはずだ。
ついでに、東条　和樹の秘書に連絡を入れてくれる？
新規施設のスパースイートグレードで２泊分急いで部屋を手配するように
一本電話を入れてもらってもいいかな？」

その言葉に秘書の男性は、すでに携帯から連絡をしようと発信ボタンを押しながら
大きく頷いた。

僕は手元にあるスマホを操作しながら、明日の予定を確認していた。

会食はＴＶ会議に変更して、弁当を先方に届けさせよう・・。
後のスケジュールは何とかなりそうだ。

幸い明日は土曜日で予定も数件しか入れていない。

日曜日は慧の家へ遊びに行く予定にしていたけど、
それは彼女が望めば、帰り道だし一緒に連れて行けばいいだけの話だ。

それよりも・・。
彼女のさっきの様子・・。

何かに思い当たった聖人は納得したように呟いた。
即座に計算された回答にたどり着いた聖人は薄く笑った。

晶の横に立っていた南條　瑠維の姿が映し出された。

「ああ・・、そうか。南條　瑠維も動き出したようだね。」

晶を見つめる表情に恋愛感情を見て取っていたから
別に驚きはしない。

南條の社長の子息・・。

秀でた容姿と、素晴らしい血統を持つサラブレットだ。

自分のルーツとは違う。

南條瑠維は僕のようなまがい物ではなく、純粋なサラブレットだろう・・。

「誰かと戦うんじゃない、過去の自分と戦ってる。
・・・だっけ。君は今もそうなのかな。」

聖人は、何かを思案したように窓の外の月を仰ぐ。

再会した森丘　晶は背中までの綺麗な長い髪に、大人びた彫りの深い
美貌で、無自覚に人を包み込むような笑顔を振りまいていた。

更に綺麗になった姿に驚いた。

生で見た彼女は美しい大人の女性になっていた。

どんな男も跪いて愛を乞うような・・。