天才策士は一途な愛に跪く。
「変でしょ?私だけ家族と容姿が全然違うの・・。」
あの頃の彼女の瞳は、今よりももっと蒼かった。
明らかに目立つ容姿を持っていた彼女を知らない人はいなかっただろう。
「私だけ、まるで偽物なんだよね。」
その言葉を聞いた時、僕がどう思ったかなんて君は知らないよね・・。
いつだって君は気づいていなかったけど
僕は君の傍にいる為に、どれだけの苦労をしただろうか。
「委員会決めの賄賂から始まったっけ・・。懐かしいな。」
中学3年の春、同じクラスで君の隣の席になった。
君は少し嬉しそうだったけど、あの時の僕の気持ちなんて
君はきっと知らない・・。
僕は遠い懐かしい思い出に目を細める。
復讐に人生を捧げていたあの頃
彼女との時間だけが僕が僕として生きていた時間だった。
何も言わなくても君には僕の気持ちが伝わるような・・。
そんな不思議な感覚が彼女との間にはあったんだ。
彼女の笑顔を見るだけで、僕は幸せな気持ちになれた。
まがい物の僕に生きる希望をくれていたのは晶の存在だった。
彼女は相変わらず無自覚に周りを魅了する・・・。
「無自覚だからたちが悪いよね・・。だけどそれも仕方ないよね。
僕たちは・・そんな彼女を好きになったんだからさ。」
ため息交じりに苦く笑った。
同じ女性を好きになった南條 瑠維という男はどんな男だろう・・。
ふと興味が沸いた。
心細い想いをしている彼女を放っとくわけにはいかない。
僕は、彼女を今手放すわけにはいかないんだ。
南條のルーツも、僕のルーツも・・・。
全てはあの呪わしい過去に帰着していることを知ったから。