天才策士は一途な愛に跪く。
中二階のロビーはがらりと静まりかえっていた。

レストランから出てきては素通りする客が通りかかるだけの
閑散とした様子だった。


レザーの高級調度品のソファセットが等間隔で並べられた落ち着いた空間だった。

聖人の言葉に現実味を感じられなかった私はどうしていいのか
解らずに呆然としていた。

ふと自分の時計を確認した。

こんな時間から会いに来るなんて有り得ないよね・・。
大きく伸びをして背もたれに身体を預けた。

天井には美しいスワロフルキーのガラスライトが光り輝いていた。

「今日は疲れたなぁ・・。考えててもどうしようもないし。
部屋でゆっくり休むことにしよう!!」

私は言い聞かせるように呟いて携帯を掴んだ。
エレベーターの置いてある一階のロビーまで降りようと重い腰を上げた。

一方、下の巨大なモニュメントや、グランドピアノが置かれたグランドロビーは
大勢のチェックイン客や、宿泊客で賑わっていた。

一階のロビーまでは、ぐるりと大きく廻るように設計された
金色で縁取られた豪奢な螺旋階段をゆっくりとした足取りで下りていく。

ほぼ半ばぐらいまで降りたぐらいで後ろからこちらへ急いで
歩みを進めてくる靴音が聞こえた。


その時だった。



<ドン・・。>


えっ・・!??

私は口が開いて、眉間に強く皺が刻まれたまま視界が一転する。

信じられないような強いちからが背中に掛かって、前のめりに身体のバランスを
崩してしまった。


ぐるんと身体が反転して、視線は階段と真っ白な先が見えない高さの吹き抜けの天井とが
交互に視界に飛び込んでくる。


後ろから強い力で押されて、ヒールの高いサンダルは宙に舞った。


ズダダダダダ・・・・・!!!!!


次の瞬間には強烈な痛みが背中と、お尻に走った。

「・・・・っ!!!?」

頭は状況を理解出来ずに必死で近くの手すりに手を伸ばした。

ガシッ!!!

強い重力に反比例するように、私はか細い腕で必死にしがみ付いた。

階段の下まで滑り降りた携帯電話とサンダルは無残に散らばって見える。

ゴクリと喉を鳴らして、ロビーの先に消えた先ほどシャケットに帽子姿の人物を目で探す。

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